組み込みシステム制約とそれに対するアプローチ ―― 模型ロケットに観測システムを組み込んだ「Hamana-5」プロジェクトに学ぶ
組み込みシステムはある機能専用に作成されるため,その機能によってさまざまな制約が発生する.開発者はこの制約をクリアするために,さまざまなアプローチを行いながら,システムを作り上げていく.ここでは,模型ロケットを使った観測システムを開発する教育プロジェクト「Hamana-5」を例として,どのようなシステム制約があり,どのように対処するとよいのかについて解説する.(筆者)
Hamana(正式名称は「Surveyor/Hamana Project」)とは,模型ロケット(モデル・ロケット)を使用して,環境調査を行う組み込みシステムを開発するプロジェクトです(写真1).「模型ロケット」という制限(サイズ,火薬を使って飛翔し,その後落下する,など)の中で観測システムを開発し,その成果を公開することを目的としています.またHamanaは,規模の小さい組み込みシステム開発を丸ごと体験することにより,エンジニアの技術力向上を図る教育プロジェクトという側面も持っています.
Hamanaプロジェクトは2004年に始まり,毎年「Hamana-1」,「Hamana-2」と,搭載機器や課題を少しずつ変えながら実施されてきました.2008年に実施された「Hamana-5」では,模型ロケットを含んだシステム全体を開発する「システム開発部門」と,搭載機器(ペイロード)のみを開発する「ペイロード開発部門」に分けて参加チームを募りました.5チームが参加を表明し,各チームが模型ロケット搭載システムという制約に対して,それぞれアプローチを行いました.
●Hamana-5プロジェクトのシステム制約
Hamanaプロジェクトは,プロジェクトの参加にあたってレギュレーション(模型ロケットの打ち上げや本体,ペイロードに関する規定)を定めています(Hamana-5レギュレーションを参照).ここに記載されているように,Hamana-5には機能,サイズ,重量という制約がありました.中でも特に難しい点は,「サイズ」と「重量」です.
1)サイズ
ペイロード開発部門においては,開発するペイロードを,Hamana実行委員会の用意する模型ロケットに収める必要があります.そのため,「直径5cm,高さ4cmの円筒内に収まるサイズ」という規定があります.システム開発部門においては,具体的なサイズの指定はありませんが,市販(あるいは自作)の模型ロケットに搭載することを考えると,必然的にサイズは小さくなります.今回システム開発部門にエントリーした2チームは,「BabyBertha」という市販の模型ロケットを機体として使用しました(写真2).そのため,ペイロードのサイズは「直径35mm程度の円筒内」という制約を受けていました.
大量生産する製品であれば,カスタムチップを作成する,多層基板を使用するなどの方法で,開発コストをかけてサイズの制約をクリアすることが可能です.しかし,Hamana-5という教育を主目的にしたプロジェクトでは小型化のために多額の費用をかけることはできず,各チームは苦労していたようです.
2)重量
ペイロード開発部門においては「ペイロードは80g以内」,システム開発部門においては「ペイロードは50g以内」という制約があります.基板単体で考えれば,さほど難しくない重量に思えますが,バッテリも含んでこの重量に抑える必要があります.大きなバッテリを搭載すれば,当然,重くなるので,小さなバッテリを使用することになります.しかし小さなバッテリは容量が少なく,取り出せる電流も小さくなるので,ペイロードの消費電力を抑えるか,稼働時間を短くするなどの運用上の工夫が必要になります.
レギュレーション上の制約としては以上ですが,実は,各チームが抱える最も大きな制約は,「予算」と「開発体制」でした.予算面では,教育プロジェクトであるためペイロードの製作を外部に委託できるはずもなく,必然的に手作りになります.また,体制面では,ソフトウェア技術者を主体とした教育プロジェクトとして参加したチームが多かったため,ハードウェアを熟知した技術者がいないチームが過半数でした.
参加した各チームは,このような制約・問題をクリアするために,独自の視点から開発を行いました.ここでは各チームのアプローチの方法を紹介するとともに,その開発過程で発生した問題点や,その解決方法を紹介します.