組み込みシステム制約とそれに対するアプローチ ―― 模型ロケットに観測システムを組み込んだ「Hamana-5」プロジェクトに学ぶ

松本 哲明

tag: 組み込み 電子回路

技術解説 2009年5月 1日

●電源が安定しない

 「TMR」は,当初,コイン型リチウム乾電池CR2032からDC/DCコンバータを使用して,5Vを生成するようにしていました.しかし,安定して5Vを得ることができず,9Vの乾電池に変更し,3端子レギュレータで5Vを生成するように変更しました.

 では,なぜ安定して電力を得ることができなかったのでしょうか? DC/DCコンバータで安定して電力を得られなかった原因は解明されていませんが,おそらく,ペイロードが必要とする電力と,CR2032が供給可能な電力が関係していると思われます.

 ペイロードが必要とする電力は,CPUだけで最大500mWであり注1,電源電圧5Vで100mAが必要です(P=VI).実際にはこの半分程度と考えても「250mW,50mA」であり,この電力を供給するために,CR2032も250mW以上の電力を出力する必要があります.このため,CR2032が出力しなければならない電流は250mW÷3V=83mAで,DC/DCコンバータの変換効率を90%とすると,92mA程度の電流を出力する必要があります.
 
 

注1:H8/3069Rのデータシートを参照すると,最大消費電力は500mWであると記載されている.


  CR2032の特性を見ると,注2,連続標準負荷が0.2mAのときに放電容量が220mAhとなっており,大電流放電が苦手な電池であることが分かります.さらに,放電負荷と放電容量のグラフを見ると,特性として表示されているのは2mAまでで,これ以上の負荷がかかる場合の特性は表されていません(図7).1mAを超えたあたりから急に容量が低下しているので,100mA近い放電負荷の場合は,放電容量は数mAhというレベルになると思われます.このため,電源が入って,CPUが電力消費を始めると,すぐにバッテリ電圧が下がり,DC/DCコンバータが5Vを生成できる限界の電圧以下になっていたのだと推測できます.

注2:CR2032のデータシートには,どの程度の放電電流を想定しているかが連続標準負荷として表されている.0.2mA×3V=0.6mWという値を考えると,このバッテリは電卓などに使用することを想定したバッテリであり,大電流放電は非常に苦手なバッテリであると推測できる.同じリチウム電池でも,カメラなどに使用するCR2では連続標準負荷が20mAと,比較的大きな電流での放電が可能なことが分かる.


[図7] 放電負荷と電気容量(パナソニック CR2032)  
*クリックすると画像が拡大します.

 これに対して,9Vから3端子レギュレータで5Vを生成する場合,バッテリが出力しなければならない電流は250mW÷9V=27mAとなり,3Vのときの1/3になります.3端子レギュレータの場合は,電圧差を熱として放出するため,実際には,5Vで必要とする50mAをバッテリから出力しなければならないので,DC/DCコンバータを使用したときの約半分程度の電流で済むことになります.

 このように,バッテリで動作する機器においては,必要とする電力とその電力を供給するバッテリのバランスが非常に重要になるため,設計時にはよく検討する必要があります.

[コラム] 3端子レギュレータとDC/DCコンバータの違い
 バッテリから機器に必要な電源を生成するには,3端子レギュレータを使用する方法と,DC/DCコンバータを使用する方法が考えられます.
 3端子レギュレータは,入力電圧と出力電圧の差分を熱損失として消費し,必要な電圧を出力します.このため,効率は入力電圧と出力電圧の差によって大きく変わりますが,9Vから5V 100mAを生成する場合は,9Vと5Vの差である4Vと100mAを熱損失として放出するため,100mA×4Vの400mWが捨てられるわけです.
 これに対してDC/DCコンバータは,入力電源を高い周波数でON/OFFし,チャージポンプや,コイル,コンデンサを使用した整流回路を用いて,異なる電圧を生成します.このため,エネルギーの損失が少なく,90%以上の効率で変換できるものも少なくありません.
 このように,良いことずくめに見えるDC/DCコンバータですが,3端子レギュレータに比べて,部品点数が多くなるというデメリットがあります.また,その特性上,出力に高周波ノイズが発生するため,アナログ情報を扱う回路に使用するときには注意が必要です.
 
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