メカトロ・システム機器の進化には分散処理が欠かせない ――ロボットに学ぶ分散処理の基本概念と課題

羅 志偉,平野慎也

tag: 組み込み

技術解説 2006年5月11日

● 開発時のキーワードは「連携」

 実際の分散処理の設計に先だって,以下に示すロボットに由来する各問題点に注意する必要があります.まず,機構や運動制御駆動に関するハードウェアの側面から見ると,ロボットの力学特性は基本的に非線形であり,ある部分のリンク運動がほかの部分の運動に強く干渉してしまうおそれがあります.したがって,運動自由度ごとに制御を完全に独立させることは困難で,ある全身動作を行うときには各関節間の連携が必要になります.分散的に関節を制御する場合は,関節間の同期を確保して制御する必要があり,また,分散した制御系間に双方向の通信遅れがあると,機械に振動や不安定現象を引き起こしてしまうので注意が必要です.

 次に,情報処理全般のソフトウェアに関する面からは,分散処理におけるロボットの局所情報処理と大域的な秩序形成との関連に注意します.簡単な多脚ロボットの例で言えば,これは脚1本1本の運動がロボットのボディ運動にどのように寄与するかに相当します.また,環境に関する膨大なセンサ情報から,認知処理の内容や処理速度が身体運動制御にいかに統合させるかを考える必要もあります.これは,面状触覚センサを利用した物体の抱き上げ動作を考えると,抱き上げのために触覚センサから実時間で何の情報が必要かという問題に相当します.

 この問題に関連して,人工知能研究でも20年前からフレーム問題注1が大きく取りあげられ,熱心に研究されてきました.さらに,ロボットでは基本的に記号論理といった離散的な情報と関節運動に関する連続的な時間信号が混ざっていて,これらの情報をもとにタスクのスケジューリングと制御を行わなければなりません.これは難問です.例えば,座っている状態から立ち上がって歩くという動作は,「座る」,「立つ」,「歩く」といった部分部分の動作のつなぎ合わせで構成されていることがわかります.このようなロボットの連続的な動作実行と離散的な動作切り替えが混ざった複雑な動きについては,制御工学の研究でハイブリッド・システム(hybrid
system)としてモデル化され,解析されつつあります.結局のところ,ロボットの分散処理におけるタスクの分割,組織化,統合の一般原理は,まだ明確化されていないのが現状です.

 注1;フレーム問題(frame problem)は,1969年にマッカーシー(John McCarthy)とヘイズ(P.J.Hayes)が指摘した人工知能研究の最大の難問.ロボットの当面の作業にとって,実世界で起こる無数の出来事のどれが関係して重要なのかを分けて評価することや,また,その状況に応じて複数の可能性から適切な行動を選択して実行することを指す.いずれも実時間で対処することが困難なことを問題にしている.

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