メカトロ・システム機器の進化には分散処理が欠かせない ――ロボットに学ぶ分散処理の基本概念と課題
ただし,自動車とロボットには要求が異なる部分もあります.自動車は人の操縦によって平たんな道路を走るのが一般的であるのに対して,ロボットはより複雑な動作環境で人間の多様な作業要求を自律的に達成していくことが期待されています.自動車における分散処理は,温度や湿度などの変動が大きい環境下で確実に動作するハードウェア技術と,安全性や快適性と運動性能を両立させるソフトウェア技術の高度な集積から成り立っています.
また,ロボットの分散処理技術には,別の難しさが隠れています.例えば,人間と機械のかかわり方から見ると,自動車のECUにおける分散処理は,操縦者である人間の補助を目的としているのに対して,ロボットの分散処理は,ロボット自身の自律化を目標としています.また,自動車の運動が基本的に移動に限られるのに対して,ロボットの運動は,より複雑な地形での移動はもちろんのこと,手や指,また数多くの運動自由度を持つ体全身を動かして作業に臨みます.ですから,各自由度間の動作の同期・協調の実時間性に対する要求の厳しさや作業の複雑さを考えると,ロボットの分散処理は決して楽ではないことがわかります.