アーキテクチャの視点でみたARMコアの変遷と動向 ――LSI設計者は「ファミリ」に,ソフト開発者は「アーキテクチャ」に注目
3) ARM9ファミリ
携帯電話のアプリケーション・プロセッサやPDAなどで,現在よく使われているのがARM9です.「DSP拡張」と呼ばれるMAC(multiply and accumulate)演算処理やJavaコードの実行支援機能を搭載したアプリケーション・プロセッサに分類されるものが多いようです.GUI(graphical user interface)機能を搭載したOSを載せ,BREW(Binary Runtime Environment for Wireless;米国Qualcomm社の携帯電話用ソフトウェア実行環境)やJavaなどを走らせ,画像や映像を再生するようなケースでは,ARM926EJ-Sなどが主力となっています.製造プロセスにもよりますが,5段パイプラインで高速をねらって設計しているケースでは,動作クロックが200MHz程度のものがあります.また,ARM9はもっとも品種の多いファミリで,キャッシュやJavaなどへの対応がない組み込み応用向けのコアも複数存在します.
4) ARM10ファミリ
整数演算プロセッサは6段パイプライン,ベクタ浮動小数点プロセッサは演算が7段,ロード/ストアが5段という,当時のARMにしては相当に高い性能をねらっています.ARM10コアのライセンスを受けた会社は,高速な浮動小数点演算など,ARM9では不可能な性能をどうしてもARM9のリリースと同時期に必要であったところに限られるのではないかと思われ,応用製品の事例はあまり聞きません.また,初期のARM10には論理合成可能なバージョンがなく,ARM10のリリースとはそれほど時間をおかずに論理合成可能なARM11が出たため,ARM10系は今後も主力にはならないと推測されます.