つながるワイヤレス通信機器の開発手法(8) ――アーキテクチャ設計を行う
1.アーキテクチャの実際
ワイヤレス機器に使われるプロセッサは,それぞれのアプリケーションと世代によって異なる.ここでは,三つのアプリケーションのアーキテクチャについて説明する.
1)ワイヤレスLAN
ワイヤレスLANの場合,通信を行う部分のみが独立しており,アプリケーションとは完全に分離されている.ワイヤレスLANに使われるプロセッサはMAC(media access control)という部分に内蔵され,以下のような働きをする.
- 再送制御,衝突回避
- アドレッシングの制御
- ベースバンド・プロセッサの制御
- ホスト・インターフェースの制御
MACに内蔵されるプロセッサにはARMコアが使われることが多い.MACはARMコアのほか,メモリ・コントローラ(DMAを含む)やセキュリティ用暗号回路などを組み込んだ特殊なLSIである.
メモリ・コントローラとセキュリティ用暗号回路についてはハード・ワイヤード論理で,再送制御と衝突回避についてはプロセッサのソフトウェアで処理されている.これらの切り分けは,処理に要求される速度によって決定される.メモリ・コントローラとセキュリティ用暗号回路については1ビット(IEEE 802.11bの場合は約90ns)ごとに処理を行う必要があるので,ハード・ワイヤード論理で処理せざるをえない.一方,再送要求や衝突処理は1パケットについて1回行うだけなので,数百μsごとに処理すればよい.この程度の速度であれば,ARMプロセッサ上のプログラムで十分に制御できる.図1(a)にワイヤレスLANの標準的な構成を示す.
また,最近ではカメラ・モジュールとワイヤレスLANを組み合わせた無線モニタ装置も登場している(図1(b)).無線モニタ装置では,低価格化や小型化のため,画像処理もMAC内のプロセッサで実行する場合がある.この場合,プロセッサの負荷が増えるので,ARM7より性能の高いプロセッサを内蔵する例が多いようだ.
〔図1〕ワイヤレスLANの構成
最近では,(b)のようなカメラ・モジュールとワイヤレスLANを組み合わせたワイヤレス・モニタ装置も登場している.