つながるワイヤレス通信機器の開発手法(2) ――製品機能を決める
○● COLUMU ●○
通信分野とコンピュータ分野の隔たり
筆者は20年近く通信機器の開発でメシを食ってきたが,その中でさまざまな機器の開発者と意見を交換することができた.そこで強く感じたのは,コンピュータの世界と通信の世界の「製品機能」に関する考えかたの違いである.
コンピュータの世界では,どのような手段を使おうとも,自分の開発した製品がいちばんになって,それが世の中に広がることがたいせつであり,それが自分の技術の力量を表すことにつながるようである.コンピュータの世界で開発を行っている彼/彼女らから見ると,通
信機器の開発は「仕様に忠実に作った製品を世に出しているだけの作業」と映っているようである.言い換えれば,"developing"ではなく,"implement"または"porting"に近いイメージで見ているようだ.「枠がある所で,その枠の中にポーティングしていて何が楽しいの?どこが開発的なの?」という問いかけを受けることも多々ある.
本文にもあるように,標準化団体から与えられる通信仕様はあくまでも接続性に関する取り決めであり,製品の機能がすべて仕様化されているわけではない.そういう意味では通信仕様以外の製品機能を独自に決定して製品を開発することは,やはり"developing"だと筆者は思う.通信仕様という最低限の秩序を守って,残りの部分で自由に開発することが通信の世界であるといえる.
コンピュータの世界に対して逆の見かたをすれば,「最低限の秩序もないところで,そんなに自分勝手にものを作っていて,将来,勝ち残れないものを買ってしまったユーザはどうなるの?」という気がする.その昔,日本の各メーカが独自仕様で作ったパソコンなどその最たるものではないだろうか? どちらも悪いとは言えないが,お互いの立場を尊重して開発に取り組めばもっといいものができるのではないかと,たまに思う.