組み込み分野における「マルチプロセッサ」とは ―― 多機能・低消費電力の要求にこたえるための技術的要素と課題
● H.264のデコード処理の消費電流は120mA
上述のハードウェアやソフトウェアの技術の進歩に伴って,マルチプロセッサ構成を1チップに集積した組み込みLSI製品が市場に出始めました.
例えば,図4は,筆者ら(NECエレクトロニクス)が開発した携帯電話向けアプリケーション・プロセッサ「MP211」です.本プロセッサには三つのCPU(200MHz動作のARM 926)と一つのDSPが集積されており,ヘテロジニアスな非対称マルチプロセッサを構成しています.130nmのCMOSプロセスで製造しています.6,658万個のトランジスタを8.95mm×8.95mmのチップに集積しており,量産可能なダイ・サイズとなっています.本アプリケーション・プロセッサでは,H.264圧縮画像の復号化処理を200MHzで動作可能なCPUとDSPを用いて実現しています.消費電力は,1.2Vの電源電圧で120mWときわめて低くなっています.
また,ARM社は,完全なホモジニアスで,かつ対称マルチプロセッサのアーキテクチャを実現した「ARM11 MPcore」を発表しています(図5).さらに効率的なマルチプロセッサが組み込み機器の分野で使われようとしています.
図4 マルチプロセッサの例(その1)
マルチプロセッサを搭載したNECエレクトロニクスの携帯電話向けアプリケーション・プロセッサ「MP211」の内部ブロック図を示す.各プロセッサに最適な処理を割り当てて,高性能・高効率を実現した.
図5 マルチプロセッサの例(その2)
ARM社のマルチプロセッサ・コア「ARM11 MPCore」の内部ブロック図.ホモジニアスで対称マルチプロセッサの処理に対応している.