組み込み分野における「マルチプロセッサ」とは ―― 多機能・低消費電力の要求にこたえるための技術的要素と課題
2.マルチプロセッサを支える技術
従来,大規模コンピューティングを中心に採用されていたマルチプロセッサが,組み込み機器でも使えるようになってきた背景には,以下のようなものが挙げられます.
●トランジスタの微細化による機能集積
現在,組み込み機器向けの半導体には,一般に設計ルールが130nmの製造プロセスが用いられています.これが,2005年から2007年にかけて90nmに移行していきます.さらに,その先を見越して65nmプロセスの開発が進んでいます.130nm→90nm→65nmとトランジスタの微細化が進むと,同一面積上に搭載できるトランジスタ数は約2.1倍,それからさらに約1.9倍と増えていきます注.
つまり,同等機能で同等の価格を維持するという前提であれば,性能向上に使えるトランジスタ数は飛躍的に向上していくということになります.
●高機能OSによるマルチタスク処理の普及
とくに,負荷分散型のマルチプロセッサにおいて,プロセッサが実行するタスクやスレッドの処理を割り付けるOSの存在は必須です(コラム「プロセス,タスク,スレッド」を参照).
近年,組み込み機器分野においても,OSによる複数のタスク処理(マルチタスク)のスケジューリングは一般的になっています.中でもLinuxやWindowsといった高機能なOSを用いれば動的にタスクを配分することができ,完全な対称マルチプロセッサに対応した処理が期待できます.
なお,機能分散型マルチプロセッサでは,かならずしもOSの機能は必須ではありません.
注;トランジスタの微細化によって,LSIのサイズがかならず小さくなるとは言い切れない.実際には,LSIの出力端子数の関係で,LSIパッケージのサイズが変わらないケースが多々ある.