ボタンをピッ! で誰かが牛乳を買ってきてくれる幸せ ―― 「ETアワード2013」受賞企業インタビュー(6) 村田製作所

Tech Village編集部

 一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)は,Embbedded Technlogy 2013(ET2013)で優れたソリューションを提供する企業を表彰する「ETアワード2013」の受賞企業を発表した.ETアワード2013の「モバイル/クラウド部門」では,村田製作所の「どこでも買い物メモシステム」が優秀賞に選ばれた.ここでは開発にたずさわった同社の能澤 伸幸氏と池田 知穂氏(写真1)に話を伺った.

写真1 村田製作所 通信事業本部 コネクティビティ商品事業部 ソリューションサービス部 システム開発課 課長の能澤 伸幸氏(写真左)と同課 池田 知穂氏(写真右)

 


―― 受賞された「どこでも買い物メモシステム」の概要について教えてください.

能澤氏:日常生活の中で「牛乳がなくなりそう」などというときに,たいていはそのあたりにある紙にメモするのですが,メモがどこかに行ってしまって買い忘れることが多いと思います.このシステムは,そんなときに「牛乳」というボタンを押すだけでスマートフォンにメモが残せるシステムです(写真2).

 

写真2 どこでも買い物メモシステム
左がリモコン,右が対応したスマートフォン・アプリである.

 

 具体的には,無線LANモジュールを内蔵したリモコンで,ボタンが30個ついています(写真3).ボタンを押すと対応した番号がクラウド側に送信され,保存されるしくみです.使う人によってメモしたい品物は異なると思うので,ボタンにひもづける内容は任意で設定できるように考えています.買い物メモはスマートフォンのアプリで参照できますし,ボタンが押されたときにスマートフォン側でポップアップを出すこともできます.

 

写真3 背面に無線LANモジュールを内蔵している

  

 

―― このシステムの特徴は何でしょうか.

能澤氏:自動化をばっさりと切り捨てて,人間が感覚的に使いやすいシステムにしたことです.本システムはそもそも,「冷蔵庫の在庫を管理できないか」というところから検討が始まりました.でも,牛乳が3分の1残っているからまだ買わなくていいとか,シチューを作りたいからもう1本必要だとかの判断を,画像認識などのシステムで行おうとすると,処理がとてもたいへんになります.それじゃ,人間がぱっと見てわかる部分は人間のインテリジェンスを生かしつつ,プラスアルファをシステムで支援して,人間の生活が便利になったらいいな,と考えました.

 システムを作り上げるにあたっては,池田の「主婦目線」の意見がとても役に立ちました.(買い物メモシステムの)リモコンのボタンを押した確認や,メモが登録できた確認のために,最初はリモコンを光らせていたのですが,「料理中に光るのを待って確認などしていられない.何かしながらのときは音がないと不便」と指摘され,確認方法を音に変更しました.ボタンを押すと「ピッ」,送信が完了したら「ピピッ」と鳴るようにして,送信に失敗した場合も残念そうに「ピー」と鳴るようにしてあります.

 データをクラウドに持って行くのは,家族でシェアしたいからです.外出中の家族が,足りないものを帰宅時に買って帰ってくれると助かりますし,このシステムによって家族間のコミュニケーションもひんぱんになるのではないかと思います.もちろん,重複して買ってしまうことのないように,スマートフォンのアプリで「購入済み」にする機能もつけてあります.また,過去の買い物メモの記録も残るので,ログを見て自分たちの生活を振り返ることもできます.

 買い物メモとしてだけでなく,例えば子供が「帰ったよ」,「今から友達の家に行くよ」などの連絡に使うこともできます.離れて暮らす高齢者の見守りなどにも使えると思います.


―― 展示会で何回かデモンストレーションされていますが,反応はいかがですか?

能澤氏:本システムは,もともと当社の無線LANモジュールでどういうことができるかというソリューション例の一つとして作ったのですが,この買い物メモシステムをほしいという声が意外と多く,商品化も本気で考え出しています.実際,自宅にも持ち帰ってテストしていたのですが,妻に「それ,いつから販売するの」と言われました(笑).

 有線LANから無線LANに移行すると,もう元には戻れない「不可逆」な便利さがあります.このシステムも,そのような「使いはじめたら手放せない」ものになればいいな,と考えています.


―― 2014年の市場や環境はどのようになっていくでしょう.

能澤氏:クラウドの利用が増えると思います.クラウドの良いところは,みんなでシェアするのが便利なことと,ちゃんとデータが保存されているという安心感だと思います.また,クラウド側に機能を持たせて,クラウドから操作することもできます.

池田氏:本システムも,高齢者の見守りや薬の飲み忘れ防止,買い物代行などや,子供の安全などに活用できますが,このようなニーズはますます広がると思われます.それらに応えるシステムを,消費者に近い形で提供していきたいと考えています.

 

「ETアワード2013」受賞企業インタビュー 一覧

(1)車載プラットフォーム標準化の流れにキャッチアップしつつ,よりよい仕様を提案
   ―― 名古屋大学

(2)まず「10mA以下」を絶対目標に定めてLSIを開発 ―― ラピスセミコンダクタ
(3)ワイナリーでは本格的に運用がスタート ―― データテクノロジー
(4)一つの企業だけでものが作れる時代は終わっている ――  ルネサス エレクトロニクス
(5)エナジー・ハーベスティング・ソリューションにmrubyを実装
   ―― スパンション・イノベイツ

(6)ボタンをピッ! で誰かが牛乳を買ってきてくれる幸せ ―― 村田製作所
(7)重い処理と軽い処理が混在し,電力効率を考慮しなければいけない機器への最適解
   ―― アーム

(8)探査衛星用に生まれた画像圧縮技術が製造ラインでも活躍 ―― NEC

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