ワイナリーでは本格的に運用がスタート――「ETアワード2013」受賞企業インタビュー(3) データテクノロジー
一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)は,Embbedded Technlogy 2013(ET2013)で優れたソリューションを提供する企業を表彰する「ETアワード2013」の受賞企業を発表した.ETアワード2013の「スマートアグリ部門」では,データテクノロジーの「みまわり伝書鳩とセンサーユニット:SenSu(センス)シリーズ」が優秀賞に選ばれた.同社は,組み込みシステムのミドルウェアやツールを開発してきたが,本システムに関しては,自社で農業向けの遠隔監視制御システムをオールインワン・パッケージとして開発した.本システムの開発にたずさわった同社の齋藤 信吾氏と奥山 尚志氏に話を伺った(写真1).
―― 受賞された製品/ソリューションの概要をお聞かせください.
齋藤氏:今回受賞した製品は,スマート・アグリ分野にフォーカスした遠隔監視制御システム「みまわり伝書鳩」と,センサ・ユニット「SenSu(センス)シリーズ」です.SenSuは,各種センサを搭載した通信ユニットで,データを収集するセンサ・ユニットやデータを中継する通信ユニット,ソーラ・パネルなどで電源を供給する電源ユニット,撮影を担当するカメラ・ユニットなどがあります(写真2).
これらのユニットを目的に合わせて組み合わせ,クラウド・システムまで含めたソリューションとして提供しているのが「みまわり伝書鳩」です.
奥山氏:このソリューションは,システム構成例を大きく二つ想定しています.一つめは,簡易気象観測です.二つめは,防犯対策です.
簡易気象観測システムの場合は,農地に簡易気象観測ユニットや3G通信ユニット,電源ユニットを設置します.簡易気象ユニットのデータをクラウド・サーバに3G通信で転送し,そのデータを農家の方の自宅のパソコンやスマートフォンに転送します(図1).
防犯対策システムの場合は,ビニール・ハウスなどにカメラ・ユニットや3G通信ユニット,電源ユニットを設置し,カメラ・ユニットの画像をクラウド・サーバに3G通信で転送し,そのデータを農家の方の自宅のパソコンやスマートフォンに転送します.もちろん,簡易気象観測と防犯対策を組み合わせたシステムも構築可能です.
このようなシステムを構築する場合に,センサ・メーカや通信機器メーカ,クラウド・サービス企業などから個別に提供を受けて取りまとめるのはたいへんです.そこで当社は,ワンストップ・ソリューションとして提供できるようにしました.
―― この「製品/ソリューション」の特徴を教えてください.
奥山氏:1番の特徴は,他社のシステムと比べて安価であることです.ウェザー・ステーションなどと呼ばれる気象ユニットは1台約40万~50万円くらいかかるものが多いのですが,当社の簡易気象観測ユニットは3万円です.システム全体でも,3年リースで約18万円以内に抑えられるように考えています.
齋藤氏:なぜシステム価格をここまで抑えようとしているかというと,農業をされている方にヒアリングしたところ,月々の支払い額が5千円程度であれば検討する,という答えが返ってきたからです.5千円なら,飲み会1回分を我慢すればよい,とのことでした.逆に,安価だから複数台導入できるとして,今まで気象観測システムを1台しか導入していなかったところが,当社のシステムを検討するケースも増えています.
防犯対策の場合,動画で監視するシステムにすると高価なものになりますが,当社の場合は,静止画で夜間でも撮影できる安価なIPカメラを採用しています.
―― システムの導入や稼動の状況について教えてください.
齋藤氏:2013年に入り,実際に農園などに導入され稼動している事例が出てきています.甲府にあるサントリー登美の丘ワイナリーのぶどう畑でも運用がスタートしました(写真3).また,大学による試験運用も数多く行っています.
―― ソリューションを実現するにあたっての発想の原点やきっかけはありますか?
齋藤氏:当社は,組み込みシステムのミドルウェア・パッケージ「Cente」がビジネスの中心です.しかし,ここ数年,組み込み機器の開発件数が減少し,弊社のミドルウェアも以前より売り上げが下がりました.そこで,実際に組み込み機器を開発して販売することを検討しました.実際,「SenSu」には弊社のミドルウェアを使っています.しかし,端末機器だけでも売り上げが上がらないことは分かっていたので,ソリューションとして販売することにしました.
そして,どの分野にフォーカスするかを検討した結果,農林水産業は,まだIT化が進んでいないだろうということで,M2Mとクラウド・サービスを立ち上げて,今回の遠隔監視制御システムになりました.
―― 今後はどのように展開する予定でしょうか.
齋藤氏:センサ・ユニットの中には,まだ自社製品ではないものがあります.その製品を自社製品として製造していくことを考えています.また,地中の温度や日射量など,現場のニーズに合わせた各種センサを用意していきます.通信ユニットでは,一つの現場で複数のセンサを利用したいというニーズも多いので,ZigBeeなどの近距離無線を利用して,複数のデータをまとめて3G通信でクラウドに転送できるようにしたいと考えています.
―― 2014年の貴社を取り巻く市場や環境をどのように予測されていますか?
奥山氏:農林水産業のIT化は,まだまだ,大学と生産者での試験運用や研究が多く,これから本格的な運用が進むと思われます.また,生産者の方に聞くと「現在,大学と試験運用している」と聞く機会が昨年より増えています.また,遠隔監視制御システムの打ち合わせの中で,有害鳥獣対策など,こちらでは想定していなかったニーズも出てきました.弊社がシステムの検討を始めて4年経ちましたが,システムは確実に実用化に近づいています.
●参考URL
(1) Embbedded Technlogy 2013;ETアワード2013発表のページ.
「ETアワード2013」受賞企業インタビュー 一覧
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―― 名古屋大学
(2)まず「10mA以下」を絶対目標に定めてLSIを開発 ―― ラピスセミコンダクタ
(3)ワイナリーでは本格的に運用がスタート ―― データテクノロジー
(4)一つの企業だけでものが作れる時代は終わっている ―― ルネサス エレクトロニクス
(5)エナジー・ハーベスティング・ソリューションにmrubyを実装
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