エナジー・ハーベスティング・ソリューションにmrubyを実装 ――「ETアワード2013」受賞企業インタビュー(5) スパンション・イノベイツ

Tech Village編集部

tag: 組み込み

インタビュー 2013年12月18日

 

 一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)は,Embbedded Technlogy 2013(ET2013)で優れたソリューションを提供する企業を表彰する「ETアワード2013」の受賞企業を発表した.ETアワード2013の「スマートエネルギー部門」では,Spansion社九州工業大学の「mrubyで切り開くエナジーハーベスティング・ソリューション」が優秀賞に選ばれた.ここでは,スパンション・イノベイツの小沢 幸浩氏と長濱 美保氏に,エナジー・ハーベスティング・ソリューションの概要とmrubyについて話を伺った(写真1).

 

写真1 スパンション・イノベイツ 営業本部 海外営業統括部 チャネルセールス・マーケティング部 担当部長の小沢 幸浩氏(写真中央),同社 営業本部 海外営業統括部 チャネルセールス・マーケティング部の長濱 美保氏(写真右)


―― 受賞された「製品/ソリューション」の概要をお聞かせください.

小沢氏:今回受賞したソリューションは,スパンション・イノベイツが開発したエナジー・ハーベスティング用電源IC搭載のスタータ・キット(MB39C831-EVBSK-01)を使って実現した,温度を計測,収集するシステムです(写真2写真3).ボードは送信側と受信側の両方で同じものを使っています.送信側では,ソーラ・パネルから得た光エネルギーだけで駆動しています.受信側はパソコンからUSB給電を受けていますが,こちらのマイコンにmruby VM(Virtual Machine)を搭載しています.

 

写真2 今回受賞したソリューション

 

写真3 温度計測・送信側の基板(手前)と受信側の基板(奥)

 

 この開発は,九州工業大学 田中 和明研究室の協力を得て産学連携で実現しました.スパンション・イノベイツはがハードウェアとミドルウェア(ドライバ・ソフトウェア)を提供し,mrubyの実装は九州工業大学が行いました.

 使用したエナジー・ハーベスティング用スタータ・キットは,ソーラ・パネルで集めたわずかな光エネルギーを電源として使用するため,昇圧型DC-DCコンバータ(MB39C831)を使用しています(図1).マイコンは,32ビットARM Cortex-M3コアの「FM3(MB9AFA32N)」を使用しています.その他に2.4GHz無線送受信モジュール,照度センサ,温度センサ,USBシリアル・インターフェース,液晶ディスプレイを搭載しています.

 

図1 エナジー・ハーベスティング用スタータ・キット(MB39C831-EVBSK-01)の外観
発電素子は付属していない.

 

 なお,弊社では,エナジー・ハーベスティング用スタータ・キットとして,降圧型DC-DCコンバータ(MB39C811)を搭載したスタータ・キット(MB39C811-EVBSK-01)も開発しています.こちらは,振動発電などに利用できます.

 

―― 産学連携に至った経緯を教えてください.

小沢氏:組み込み開発は,現在C/C++で開発するケースが多いのですが,FM3の付加価値として,もっと簡単にプログラムができる環境はないかと弊社で検討していました.その時に九州工業大学で組み込みシステムを簡単に開発するmrubyの研究を進めていることを知りました.

長濱氏:そこで,九州工業大学 准教授の田中 和明氏に,弊社のエナジー・ハーベスティング用スタータ・キットを紹介したところ,エナジー・ハーベスト,マイコン,センサ,無線通信が全て搭載されているところを評価していただき,そこから共同開発が始まりました.


―― mrubyの特徴を教えてください.

長濱氏:今回このシステムに使用したmrubyとは,まつもと ゆきひろ氏が開発したオブジェクト指向のスクリプト言語Rubyを,開発効率などの良さを保持したまま,組み込み開発に適用できるように軽量化した言語です.

 mrubyは,これまでのRubyの得意分野であるWeb系のみならず,情報家電や産業機器などの組み込みシステム,さらには,スマートフォンのアプリやゲーム・ソフトウェアなどさまざまな分野での利用を目的とした研究・開発が行われています.この研究を,福岡CSKや九州工業大学などが中心となり,平成22年度の経済産業省「地域イノベーション創出研究開発事業」としてスタートさせました.

 Rubyやmrubyの開発効率が高い理由は,変数宣言の必要がないなどシンプルに記述できることです.C/C++でプログラムすると100行かかるところを,mrubyで開発すると約半分の50行で書けます.行数が減ると,ソフトウェアのバグも減少します.mrubyは細かなルールがなく,アルゴリズムだけのシンプルな記述ができます.ネットワークやテキスト処理などのライブラリも豊富です.

 具体的なmrubyの活用方法としては,組み込み機器それぞれに対して何らかのパラメータだけ変更したいような場合に,パラメータ部分をmrubyで記述して変更を容易にすることを検討している事例があります.また,ネットワークやクラウドとの連携を容易に実現できると思います.

 mrubyを搭載するためには,実行環境として数Mバイト程度のmruby VMが必要となり,メモリ容量が少なくなる,実行速度が遅くなる,などのデメリットもあります.そこは,開発効率とのトレードオフになります.


小沢氏:プログラムの言語の流れとして,アセンブリ言語からC/C++に移行したように,今後,C/C++からmrubyという流れも一つの選択肢となります.今の若い学生は,Web開発やAndroidなどJavaで開発しています.その人たちが組み込みシステムのプログラムを記述するような場合に,mrubyは言語として,C/C++より敷居が低いと考えています.

 

―― 今回の受賞を踏まえて,今後どのような開発を進めますか?

小沢氏:このようなバッテリなしの組み込みシステムでは,電力や処理速度などに制約があるので,mrubyの速度や軽量化の研究開発を進めたいと考えています.また,当社としては,ARM Cortex-M0コアのFM0+マイコンでmrubyを実装し,さらに電力効率を上げていきたいです.


―― 2014年の貴社を取り巻く市場や環境をどのように予測されていますか?

小沢氏:スパンションとしては,グローバルな展開として,エナジー・ハーベスティング,M2M,センサ・ネットワークを含め,ゼロ・パワーで実現することを引き続き進めていきます.この動きは,ヨーロッパやアメリカからも注目を集めています.また,さまざまな自然エネルギーに対応するハーベスタも考案されているので,2014年はエナジー・ハーベスティングの具体的な展開が出てくると思います.

 

「ETアワード2013」受賞企業インタビュー 一覧

(1)車載プラットフォーム標準化の流れにキャッチアップしつつ,よりよい仕様を提案
   ―― 名古屋大学

(2)まず「10mA以下」を絶対目標に定めてLSIを開発 ―― ラピスセミコンダクタ
(3)ワイナリーでは本格的に運用がスタート ―― データテクノロジー
(4)一つの企業だけでものが作れる時代は終わっている ――  ルネサス エレクトロニクス
(5)エナジー・ハーベスティング・ソリューションにmrubyを実装
   ―― スパンション・イノベイツ

(6)ボタンをピッ! で誰かが牛乳を買ってきてくれる幸せ ―― 村田製作所
(7)重い処理と軽い処理が混在し,電力効率を考慮しなければいけない機器への最適解
   ―― アーム

(8)探査衛星用に生まれた画像圧縮技術が製造ラインでも活躍 ―― NEC

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