探査衛星用に生まれた画像圧縮技術が製造ラインでも活躍 ―― 「ETアワード2013」受賞企業インタビュー(8) NEC

Tech Village編集部

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インタビュー 2013年12月24日

 一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)は,Embbedded Technlogy 2013(ET2013)で優れたソリューションを提供する企業を表彰する「ETアワード2013」の受賞企業を発表した.ここでは,先端テクノロジー賞に選ばれたNECの「低負荷・高圧縮 画像コーデック『StarPixel』」について,同社 情報・メディアプロセッシング研究所 信号処理テクノロジーグループ 主任研究員の高田 巡氏に話を伺った(写真1).

 

写真1 NEC 情報・メディアプロセッシング研究所 信号処理テクノロジーグループ 主任研究員の高田 巡氏(写真左)と同社 新事業推進本部 組込みインテグレーション事業推進部 主任の佐渡島 健氏(写真右)

 

 

―― StarPixelの概要について教えてください.

高田氏:StarPixelは,当社が独自開発した画像圧縮コーデックです.JPEG 2000と同等の高画質・高圧縮率でありながら,圧縮するスピードが速い(約10~40倍)のが特徴です(図1図3).また,可逆圧縮(ロスレス)と非可逆圧縮(ロッシー)の両方に対応しています.圧縮率が高いので,ネットワーク越しに大容量の画像データを受け渡す用途に向いています.

 

図1 画像圧縮規格の圧縮率や圧縮/伸長負荷の比較
圧縮率は,数字が小さいほうが高圧縮である.

 

 

図2 画像圧縮規格の性能比較(可逆/非可逆についての定量比較)

 

 


図3 画像圧縮規格の性能比較(非可逆についての定性比較)

 

 

 本技術はまず,2006年に人工衛星関連の特殊用途向けに開発しました.その後,2007年に探査機「あかつき」に搭載され,製造分野や流通分野,医療現場などでもニーズがあるということでWindows用のソフトウェア・ライブラリを開発したのが2012年です.2014年度に打ち上げられる探査機「はやぶさ2」への採用も決まっています.

 当初,人工衛星に搭載する画像圧縮はJPEG 2000で行う予定だったのですが,処理が重く,1枚の画像を圧縮するのに60秒かかってしまう状況でした.人工衛星は使用できる電力と重量が限られているので,専用LSIは搭載できないのです.これでは衛星で予定している観測周期に間に合わない,少なくとも数秒以内にしてほしいということで,画質を保ちつつ高速で圧縮できるコーデックを開発しました.

 具体的には,演算回数やメモリ・アクセスを工夫しました.例えば,圧縮の周波数変換や係数の符号化の際に,メモリのコピーやストアを伴わないようにしたのです.


―― 開発のきっかけは,顧客のニーズにあったということでしょうか?

高田氏:実は,顧客のニーズの前に,もともと私がJPEG 2000の研究開発を行っており,組み込みに導入することを提案していました.しかし処理速度がネックとなって導入が進まず,圧縮率だけに特化した圧縮コーデックでは組み込みでは使えないことが分かり,圧縮率と処理速度の両方を追求したコーデックの開発に取り組み始めたのが最初です.

 JPEG 2000が開発された当時はPentium 4プロセッサの時代で,プロセッサの性能はどんどん上がっていく(処理負荷はそれほど問題にならなくなる)と考えられていました.しかしその後,その流れが止まり,画像圧縮も処理負荷を下げようという動きが出てきました.


―― 本技術はどのようなところに使われていくでしょう.

高田氏:一般消費者向けの画像圧縮規格は,なかなか新しい規格には置き換わりません.ユーザが既存の規格で困っていないというのもありますし,ユーザが積極的に選択するというよりは,OSやブラウザの大半が対応して初めて広まっていくことになります.一方,業務用にはさまざまな画像圧縮規格が出てきています.特に,医療関連や監視カメラなどの用途でニーズが増えています.

 本技術は圧縮速度が速いのが特徴なので,撮影した画像をすぐ圧縮して送りたい,といった用途で強みを発揮します.例えば,人がいる方向にカメラの向きを制御して撮影する,といった場合,処理速度が重要になってきます.逆に,圧縮速度が重要とならない用途であれば,ほかのコーデックでもかまわないわけです.

 例えば,工場の製造ラインなどで,製品の出荷時の記録を画像で全数残したい,というニーズが出てきています.製品に何か問題が見つかったときに,工場出荷時の状態を確認できるよう,データを保存しておきたいのです.この場合,製造ラインを止めずに撮影したいので圧縮速度が重要ですし,データを保管する容量も小さいほうがよいので,本技術の強みが生きてきます.


―― 今後はどのような展開を考えておられるでしょうか?

高田氏:既に,Windows用のライブラリは提供しており,LinuxやiOS,Android向けは現在対応中です(写真2).技術の改良という点では,圧縮率をさらに高めたいと考えています.また,現在の本技術は自然画(レンズ越しに撮影した画像)に特化しているので,人工画(コンピュータ・グラフィックスなど)や文字の圧縮に特化したものも作れないかと考えています.また,4Kカメラと4Kモニタを組み合わせて,ネットワーク越しに診察できないかなども考えています.

 

写真2 StarPixelを搭載した通信端末の例
向かって左(黒)が親機,右(青)が子機.子機はカメラを内蔵しており,OSなしで動作している.親機はLinuxを搭載しており,親機と子機はZigbeeで通信し,1km離れても通信が可能.親機1台に対して子機を8台接続できる.子機は単4電池×4本で駆動しており,1日1回の撮影で1,000日駆動する計算.

 

 

―― 2014年にはどのような分野が重点市場になっていくと思いますか.

高田氏:これからは,スマート・シティなどといった社会ソリューションとして,画像によるビッグ・データの活用が進むと思われます.ビッグ・データは,「解析する技術」と「集める技術」が両輪となり,お互いに伸びながらシステム全体の付加価値を上げていくでしょう.その中で画像圧縮技術は,データを集める技術として重要な役割を担っていくと考えています.

 

「ETアワード2013」受賞企業インタビュー 一覧

(1)車載プラットフォーム標準化の流れにキャッチアップしつつ,よりよい仕様を提案
   ―― 名古屋大学

(2)まず「10mA以下」を絶対目標に定めてLSIを開発 ―― ラピスセミコンダクタ
(3)ワイナリーでは本格的に運用がスタート ―― データテクノロジー
(4)一つの企業だけでものが作れる時代は終わっている ――  ルネサス エレクトロニクス
(5)エナジー・ハーベスティング・ソリューションにmrubyを実装
   ―― スパンション・イノベイツ

(6)ボタンをピッ! で誰かが牛乳を買ってきてくれる幸せ ―― 村田製作所
(7)重い処理と軽い処理が混在し,電力効率を考慮しなければいけない機器への最適解
   ―― アーム

(8)探査衛星用に生まれた画像圧縮技術が製造ラインでも活躍 ―― NEC

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