まず「10mA以下」を絶対目標に定めてLSIを開発 ――「ETアワード2013」受賞企業インタビュー(2) ラピスセミコンダクタ

Tech Village編集部

tag: 組み込み

インタビュー 2013年12月11日

 一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)は,Embbedded Technlogy 2013(ET2013)で優れたソリューションを提供する企業を表彰する「ETアワード2013」の受賞企業を発表した.ETアワード2013の「スマートヘルスケア部門」では,ラピスセミコンダクタの「Bluetooth Low Energy LSI(ML7105-00X) & モジュール(MK71050-02)」が優秀賞に選ばれた.同社は,10mAの電流で動作するBluetooth Low Energy LSIを開発した.ここではLSIの設計にたずさわった同社の野田 光彦氏(写真1)に話を伺った.

 

写真1 ラピスセミコンダクタ LSI商品開発本部 無線通信LSIユニット 近距離無線通信LSI開発チーム 近距離無線商品開発第一グループの野田 光彦氏

 

 

―― 貴社の概要と,今回受賞された製品の概要をお聞かせください.

野田氏:ラピスセミコンダクタは,2008年10月に沖電気工業から分社し,「OKIセミコンダクタ」としてローム・グループの一員となりました.それから3年後の2011年10月に「ラピスセミコンダクタ」に社名を変更しました.

 今回受賞した製品は,Bluetooth Low Energy LSIとそのLSIを使用したモジュールです(写真2).弊社は現在,近距離無線通信としてBluetooth Low Energyと特定小電力無線に注力しています.Bluetooth Low Energyは,スマートフォンにつながる,消費電力が低い,というメリットから,ウェアラブルな機器でバイタル・データ(体温や血圧などの身体データ)を集めるものとして使われていくと考えています.その一例として,このモジュールを使った「ばんそうこう型体温計」を開発しました(図1).これを体に直接貼付して,体温をBluetooth経由でスマートフォンに転送,記録できます.

 

写真2 Bluetooth Low Energyモジュールを搭載したばんそうこう型体温計のデモンストレーション
基板上にある技適マークが表示されているチップが,Bluetooth Low Energyモジュールである.この中に入っているBluetooth Low Energy LSI(ML7105-00X)は,5mm角のWQFN32パッケージに封止されている.

 

図1 ばんそうこう型体温計に使用した基板と部品

 

 受賞したBluetooth Low Energy LSIは,既に,カシオ計算機から発売されている「Bluetooth v4.0対応 G-SHOCK」に採用されています(写真3).ここでは,スマートフォンの音楽プレーヤをコントロールするために使われています.採用されたポイントは,消費電力を抑えたところです.

 

写真3 同社のBluetooth Low Energy LSIを採用しているG-SHOCK

 

 

 身に付けるものだと,なるべく軽いことが重要になります.ウェアラブルな機器では電池の重さがかなりの重さを占めます.軽くするには,なるべく小型のボタン電池を使いたい,電池が小さくなるとLSIの消費電力も抑えなければなりません.現在量産されている一般的なBluetooth Low EnergyのLSIは,送信や受信で15mA~20mAが必要です.今回弊社が開発したLSIは,消費電流が10mAを切っており,送信時が9.8mA,受信時が8.9mAとなっています.現在,量産されているBluetooth Low EnergyのLSIでは,一番低い電流です.今回開発したLSIは,2秒に1回データを転送したとして,CR2032電池で2年間動かせる設計になっています.

 

―― どのようにして低消費電力を実現したのですか?

野田氏:まず,10mAを切ることを目標に定めました.これは,ユーザからの強い要望でもありました.次に,一番電力のかかる高周波部分の回路をできるだけシンプルにしました.シンプルにすると性能が落ちるので,シミュレーションを行って性能が落ちたブロックを修正するというようなことを,いくつものブロックで繰り返しながら回路を設計しました.

 特に,PLL(Phase-locked Loop)回路は,受信でも送信でも使用しますので,この消費電力を下げると,受信と送信どちらも消費電力を下げられます.ここで回路の配置を変更することで電力を下げられることに気が付き,また,回路をより小さくすることができました.

 

―― 今回の受賞を踏まえて,今後どのように開発を進められますか?

野田氏:LSIとしては,今後も低消費電力化を進めていきたいと考えています.次は,4mA以下を目標にしています.モジュールに関しては,無線モジュールと聞くと電波認証など何かと面倒なイメージがあります.そこで,用途に合わせたセンサなどを初めから用意して,すぐに利用できるようにしていきたいと思います.

 

―― 2014年の貴社を取り巻く市場や環境をどのように予測されていますか?

野田氏:スマートフォンの普及で,G-SHOCKのようなウェアラブル・デバイスも増えてくると思います.また,ヘルスケア製品などで,スマートフォンからクラウドにデータを転送することで,数年分のデータを蓄積できる状況になったことから,また新たなアプリケーションが出てくるでしょう.そのようなアプリケーションに対応できる技術や環境がそろっており,面白い時期に来ていると思います.

 

●参考URL

(1) Embbedded Technlogy 2013;ETアワード2013発表のページ.

 

「ETアワード2013」受賞企業インタビュー 一覧

(1)車載プラットフォーム標準化の流れにキャッチアップしつつ,よりよい仕様を提案
   ―― 名古屋大学

(2)まず「10mA以下」を絶対目標に定めてLSIを開発 ―― ラピスセミコンダクタ
(3)ワイナリーでは本格的に運用がスタート ―― データテクノロジー
(4)一つの企業だけでものが作れる時代は終わっている ――  ルネサス エレクトロニクス
(5)エナジー・ハーベスティング・ソリューションにmrubyを実装
   ―― スパンション・イノベイツ

(6)ボタンをピッ! で誰かが牛乳を買ってきてくれる幸せ ―― 村田製作所
(7)重い処理と軽い処理が混在し,電力効率を考慮しなければいけない機器への最適解
   ―― アーム

(8)探査衛星用に生まれた画像圧縮技術が製造ラインでも活躍 ―― NEC

組み込みキャッチアップ

お知らせ 一覧を見る

電子書籍の最新刊! FPGAマガジン No.12『ARMコアFPGA×Linux初体験』好評発売中

FPGAマガジン No.11『性能UP! アルゴリズム×手仕上げHDL』好評発売中! PDF版もあります

PICK UP用語

EV(電気自動車)

関連記事

EnOcean

関連記事

Android

関連記事

ニュース 一覧を見る
Tech Villageブログ

渡辺のぼるのロボコン・プロモータ日記

2年ぶりのブログ更新w

2016年10月 9日

Hamana Project

Hamana-8最終打ち上げ報告(その2)

2012年6月26日