見直される燃料電池車,2015年に市販を開始へ ―― FC EXPO 2013

福田 昭

tag: 組み込み 電子回路

レポート 2013年3月 4日

 燃料電池の技術と製品に関する展示会「第9回水素・燃料電池展(FC EXPO 2013)」が,2013年2月27日~3月1日に東京ビッグサイト(東京都江東区)で開催された(写真1).FC EXPO 2013では,「排気ガス・ゼロ」を実現する究極の自動車技術である「燃料電池自動車」が大きな注目を集めていた.

 

写真1 「第9回水素・燃料電池展(FC EXPO 2013)」の来場者受け付け登録所

 

 

●低エミッションからゼロ・エミッションへ

 自動車産業は近年,二つの大きな課題の解決に継続的に取り組んできた.二つの課題とは「環境」と「安全」である.

 環境の課題は,排気ガスによる地球温暖化.課題の解決策として初めに考えられたのが,燃費の向上,言い換えると「排気ガスの削減(低エミッション)」である.その切り札となったのが「ハイブリッド自動車(HV:Hybrid Vehicle)」で,すでによく知られているように,ハイブリッド自動車はガソリン・エンジンで発電機を動かして2次電池を充電し,その電気エネルギーでモータを回して駆動に利用する.ガソリン・エンジンだけの駆動方式に比べて,排気ガスの排出量(走行距離当たり)を減らせる.

 もちろん,低エミッションだけでは地球温暖化対策として万全ではない.次の段階として考えられているのが,「排気ガス・ゼロ(ゼロ・エミッション)」である.ゼロ・エミッションを実現する自動車技術として有力なのは,今のところ電気自動車しかない.

 電気自動車技術は細かく見ると,二つの方式がある.一つは「2次電池式電気自動車」である.2次電池を外部電力によって充電し,2次電池によって電気モータを動かして自動車を駆動する.すべてを電気で賄うので,当然ながら排出物はゼロである.単に「電気自動車」あるいは「EV(Electric Vehicle)」と表記するときは,この2次電池式自動車を指すことが多い.

 電気自動車を実現するもう一つの方式は,「燃料電池式電気自動車」である(写真2).水素を燃料とする燃料電池によって発電し,電気モータを駆動する,あるいは,2次電池を充電する.すなわち燃料電池または2次電池によって電気モータを動かして自動車を駆動する.燃料電池が排出するのは水(水蒸気)と熱だけなので,環境負荷はほとんどない.燃料電池式電気自動車は最近では「燃料電池自動車」,「燃料電池車」,「FCV(Fuel Cell Vehicle)」と表記することが多い.

 

写真2 燃料電池自動車(FCV)の仕組み

 水素供給・利用技術研究組合(HySUT)の展示パネルから.

※ 写真をマウスでクリックすると拡大します

 

 

 EVとFCV.どちらも技術開発は容易ではない.あえて比較すれば,自動車本体の開発コストはEVの方がFCVよりも低い.EVは2次電池と電気モータで構成されているのに対し,FCVはほかに高圧水素タンクと燃料電池が加わるからだ.

 

●EVへの期待と目の前に立ちふさがる厳しい現実

 EVとFCVでは,実用化はEVが早かった.2009年6月に三菱自動車工業が軽自動車ベースの電気自動車「i-MiEV(Mitsubishi innovative Electric Vehicle)」の量産を始め(人とくるまのテクノロジー展2008のレポート記事を参照),2010年12月には日産自動車が専用設計の電気自動車「LEAF」の市販を開始した(人とくるまのテクノロジー展2011のレポート記事を参照).

 ゼロ・エミッションの切り札として期待を集めたEVだが,現在のところ,販売台数の伸びは芳しくない.2011年における日本国内のEV販売台数は約13,500台,2012年における日本国内のEV販売台数は約15,900台となっている.大半のシェアを握る日産自動車の「LEAF」は,世界全体での累計販売台数が2013年1月時点で約51,400台.同社は2016年に累計で150万台のEVを販売することを目標として掲げている.しかし現状では,目標達成は困難だとされている.

 例えば2012年12月の国内登録乗用車(新車のみ)ランキングでは,トップがトヨタ自動車のハイブリッド車「AQUA」(東京モーターショー2011のレポート記事を参照)で20,397台,2位が同じくハイブリッド車の「Prius」で16,573台と,乗用車販売のトップ2がハイブリッド車になっている.これに対してEV「LEAF」の登録台数は870台,EV「i-MiEV」の登録台数は137台と,かなりの差があることが分かる.

 EVの販売が伸びない原因は主に二つあると考えられている.一つは価格が高いこと.もう一つが,航続距離(1回充電当たりの走行距離)が短いことである.特に後続距離はカタログ仕様で150km~200kmと,高価な乗用車としてはユーザに不安を与える短さになっているようだ.EVは坂道を登坂すると航続距離が短くなるという弱点があり,安心して走行できる距離は日本国内だと100km前後とされている.これは,例えば東京都心部からだと,神奈川県鎌倉市に出かけることすらためらう距離だ.平日は1日に20km~30kmしか走行しなくとも,休日に東京から鎌倉まで安心してドライブすることが難しいとなると,一般ユーザには受け入れられなさそうだ.セカンド・カーであればまだ受け入れられる余地があるが,残念なことにEVの価格がまだきわめて高く,セカンド・カーの候補にはならない.このことがまた,EVの将来性を狭めている.

 

●燃料電池自動車に再び注目が集まる

 EVで航続距離をガソリン車並みに伸ばすことは,二つの点で困難だとされている.航続距離を伸ばすためには,2次電池の容量を増やすしかない.2次電池の容量の拡大はコストの大幅な増加を招く.そして自動車本体の重量も増加する.

 EVに対する厳しい現実が明らかになるとともに,見直されてきたのが燃料電池を利用するFCVである.FCVはガソリン車を超える航続距離を備えており,EVと違って「ガス欠」の不安が少ない.また燃料(水素)の充てんに要する時間が3分~5分程度と短い.ガソリンの充てんと同じくらいの所要時間で済む.EVは充電時間が数時間と長く,急速充電器でも80%充電までに15分~30分程度かかってしまう.

 そして水素は石油や天然ガス,石炭,バイオマスなどの原料から製造できるので,石油火力発電や天然ガス火力発電といった発電所の電気を利用するEVに比べると,水素を直接利用するFCVはエネルギーの利用効率が高い.

 

●燃料電池自動車を一般向けに再来年から販売へ

 FCVの販売時期が明確になってきたことも,FCVに対する注目を集めることに大きく作用した.国内でFCVの開発と普及を促進する業界団体「水素供給・利用技術研究組合(HySUT:The Research Association of Hydrogen Supply Utilization Technology)」はFCVを一般に普及させ始める時期を2015年としている.これは2011年1月に国内の自動車メーカ3社とエネルギー事業者10社が共同で,FCVの国内市場への本格的な導入をを2015年に開始することをアナウンス(共同声明)したことに対応したものである(写真3).

 

写真3 「燃料電池自動車の国内市場導入と水素供給インフラ整備に関する共同声明」

 水素供給・利用技術研究組合(HySUT)の展示パネルから.

※ 写真をマウスでクリックすると拡大します

 

 

 ここで自動車メーカとはトヨタ自動車,日産自動車,本田技研工業の3社で,例えばトヨタ自動車は2015年までにセダン・タイプの燃料電池車を一般ユーザ向けに販売すると表明している

 さらに,大手自動車メーカの間では今年(2013年)に入り,FCV技術の共同開発に関する発表が相次いだ.トヨタ自動車はFCVの技術開発でBMWグループと協業すると2013年1月24日に発表した.また日産自動車は,ドイツDaimler社および米国Ford Motor社とFCV技術の共同開発で合意したと2013年1月28日に発表した.この発表で日産は,FCVの市販開始時期を2017年と説明している.

 

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