ヘッド・ハンターの視点(2) ――あなたのキャリアは「生涯一技術者」? それとも...
筆者は,人材紹介(いわゆるヘッド・ハンティング)のしごとに従事しています.前回は「エンジニアの節目の年齢」について書きました.今回は「キャリア作り」について考えてみます.
エンジニア一筋? 営業技術(FAE :field application engineer)から営業マネージャになる? ベンチャ企業の設立を目指す? どれも良いことですし,この先30年,いや40年をどう生きていくかは,人それぞれです.
●半導体設計エンジニア一筋
30才のCさんは,男性,都内在住で既婚.半導体設計受託の会社でシステムLSI設計を6年経験されています.設計受託では,お客の要求に従ってしごとを進めなければならず,自分なりのアイデアを出す機会が少ないようです.会社が事業を縮小することもあって,転職(転社?)を考えておられました.
筆者は知り合いの紹介でこの方にお会いしたのですが,初めてお会いしたときは,自分の技術力に自信がないせいなのか,自分の意見を語られるようすから弱さを感じました.受託のしごとのせいなのか,それとも本人のもともとの性格なのか,筆者にはわかりませんでした.
設計エンジニアを続けるか,営業技術に転身するか,外資系企業か日本企業か,最初は選択肢が多すぎてかなり悩まれていたようです.しかし,数回お話ししているうちに,「製品を作る立場になってみたい」との結論に至り,半導体メーカに的を絞って候補会社をリストアップすることになりました.国内メーカか,外資系メーカかで悩まれる方が多いのですが,幸いCさんはすばらしい英語力を持っておられるので,外資系メーカに絞って応募の準備を始めました.
ちょうどそのとき,システムLSI設計エンジニアの求人案件があり,設計部門長の方の面接,役員の方の面接へと進み,1ヵ月でその会社からオファ・レターをいただくことができました.オファの内容も申し分なく,本人は十分納得して決められました.
1ヵ月半で転職先が決まるのは,とても早いケースです.そのかぎは,6年間,しっかりと設計のしごとをされてきたことと,独学で英語力を身につけられておられたことです.30才と若いのに,努力を惜しまないすばらしい方でした.この方なら,会社は変わられても,エンジニア一筋であと40年はがんばっていくことができるでしょう.
●営業職を目指す営業技術者
34才のDさんは,男性,千葉県在住で独身.開口一番,「将来営業を目指したいが,そのためには何が必要なのか?」とのご質問(おっと,不意をつかれた!).もちろん交渉・対面のスキルなど,基本的なところは承知しておられます.とっさに筆者は,「営業に望まれることは,人脈でしょう.担当製品が決まったとき,どの会社のどの方にどうアプローチすればビジネスが展開できるかをはっきりと描けることがたいせつ.もちろん業界の市場動向や技術動向と自分なりの市場の見方を社内外にしっかり話せることもたいせつです」と答えました.
Dさんは半導体商社で営業技術を10年あまり経験されており,次のキャリア・アップを目指されています.筆者は「どの商社で働くかよりも,専門技術分野をしっかりと見きわめて,その分野の将来性を見通すことです.そのためには,いろいろな分野の方々とお話しをしてみてください.お客さま,競合メーカ,商社の方,みなさんと会う機会を作ってください.外国の方は『宝の山』と思って会うのが良いでしょう.英語の上達もあり一石二鳥! きっと人脈も広がります」とアドバイスしています.
筆者は,今しばらく,本人の変化を観察しているところです.時期をしっかり見定めることは重要です.また,転職が必ずしも良い選択であるとはかぎりません.
今年(2003年)4月以降,すなわち新年度が始まってからは,求人案件がめっきり少なくなってきました.3月までは,今秋の米国の景気回復予想によりそれなりに求人はありました.しかし,今年後半にかけて,まだまだ先行き不透明のようで,募集見送りが増えています.
筆者は組み込み業界専門ですが,一つの求人案件に10~20人の候補者がおられますし,最終選考は数名の競争となります(一般職であれば,1けた規模が大きいらしい).もちろん,先方の要件(スペック)にぴったり合っていることが候補者となる前提ですし,最終選考を通過しても,オファが出るまで待たされることも少なくありません.この道15年の先輩ヘッド・ハンターに聞いても「ベストの人を紹介しているのに成立しない.とにかく,求人側の目がきびしい」とのことです(この記事が出るころには,好転していることを願っている).
転職が難しい時期ですが,根本的には人材の流動化は進んでいますので,あとは景気しだいというところです.ただし,どのようなしごとをしていくかはみなさんの考えで,景気には関係ありません.よい条件で転職しようとお思いなら,自分のキャリアについて,いま一度見つめ直してみてはいかがでしょうか.
(本コラムはDESIGN WAVE MAGAZINE 2003年9月号に掲載されました)
◆筆者プロフィール◆
米焼酎(ペンネーム).30年前,F- 8,8080,Z-80マイコンと出会い,半導体業界にあこがれて二つの外資系半導体メーカを経験.今は,人材コンサルタントの修行中.話をするのが好きで,焼酎があるとお尻に根が張って何時までも飲む癖がある.
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