ヘッド・ハンターの視点(3) ――面接の場での対話力
筆者は,人材紹介(いわゆるヘッド・ハンティング)のしごとに従事しています.今回は「面接の場での対話力」について考えてみました.面接は,しっかりと築かれたキャリアとスキルを評価されるたいせつな場面です.面接で失敗しないように,日々の心がけが重要です.
●面接時に対話のペースがつかめず,転職の機会を逃がす
筆者は了解をいただいて,機会があるたびに面接に同席するようにしています.最近の面接で,たいへん残念なことがありました.
Mさんは,40才前半で半導体関連製品の顧客サポートを20年間経験されています(既婚で,スポーツが趣味).Mさんの職務経験・経歴は申し分なく,英語力も期待以上でした.ところが面接における「対話力」が原因で,せっかくの転職の機会を逃されました.
面接の場面をふりかえると,簡単なあいさつで着席し,先方から会社の概要など,数分の説明がありました.Mさんは緊張され,聞き役に回って先方の話を懸命に聞こうとされるので,なかなかことばが出ません.ことばが出てきても,ひと呼吸の「間」があります.先方は,「間」を待ちきれずに話を次に進めますから,対話が始まりません.
「御社のことはうかがっています」とか,「先日の新製品のニュースを拝見しました」とか,積極的に対話のペースを作っていけばよかったのです(相手をほめるということではなく,あくまでも対話のペース作り).そうすれば先方も気分良く,「わが社に関心を持っている.私の話を聞いてくれている」と理解され,受け入れられます.ペースをつかめないまま,「今までの職務経歴をお話しください」と質問され,話し始めましたが,一方的で要領を得ない経歴説明になってしまいました.対話のペースがつかめないまま本題に入ったので,お互いの呼吸が合わず,20分が経過しました.
ときおり筆者もことばをはさんでお互いの対話をフォローしようと努力したのですが,筆者の力不足でした.結果として,話された時間の配分は先方が70%,Mさんが30%でした.面接ですから,お互い50%の時間配分が適当だと思います.
●話べたでも,相手の目線を見ながら誠実に対応すれば成功
その翌日,Iさんの面接に同席しました.たいへんうまく進み,3時間で内定を取ることができました.Iさんは30才代後半(既婚)で,半導体のFAE(field application engineer)をされています.まず,人事担当者と技術責任者の2名が出てこられ,事業内容の説明と質疑応答が始まりました.Iさんは,決して話しじょうずな方ではありませんが,相手の目線を見ながら,「はい」とか「そうです」のことばで誠実に対応されます(緊張の度合いは,Mさんと同じだった).転職理由やしごとの内容などの質問は1時間半ほどで終わりました.
今回は筆者がことばをはさむ機会はまったくありませんでしたし,安心して同席していました.その後,社長もすぐに会いたいとの連絡をもらい,無事面接は終了しました.面接が終わってから,Iさんは筆者に「同席いただいて助かりました.私だけではうまく話せませんでした」と言われました.筆者は横で聞いていただけなのですが....
「対話力」は,初対面の人と早く打ち解けて,お互いの考えを理解し話す能力だと思っています.面接は1時間程度ですから,この「対話力」しだいで結果が大きく変わります.また,最初の10分で結果の80%が決まってしまいます.MさんとIさんを比較すると,経歴書・キャリアなど,先方の事前の期待はまったく同じでした.
「会話力」はいつもの仲間どうしや家族どうしの対話ですから,誤解されることが少なく,お互いの性格もよく知っているので,たとえ表現をまちがえても「やけど」はしません.一方,面接は初対面の人と会って,経歴・能力・希望を伝えるのですから,小さな表現ミスでも「やけど」になってしまうことがあります.特に,エンジニアで開発職の方は「対話力」を磨く機会が少ないようですから,多くの友人や社外の方々と接触されることをお勧めします.
営業やFAEの方は,この面では恵まれています.
親しい人たちとの日常の会話を通して,「ことばで表現する力」を身につけることがたいせつなのは言うまでもありません.キャリア・スキルをしっかり築いて,「対話力」で好機を逃がさないように心がけてください.
最近,景気の回復を実感しています.(2003 年)4~9月の上半期が終わって,求人が増えてきました.エンジニアの案件については,件数が3 倍程度増えていますが,内容は変わりません.変わったところでは,営業の案件が皆無から一転して増えてきました.それと,件数はまだ少ないのですが外国企業の日本上陸も始まっているようです.3ヵ月前の記事に「景気回復の期待」を書きましたが,あのころが景気の底だったようです.このまま,上昇気流に乗って本格的に景気が回復することを期待しています.
(本コラムはDESIGN WAVE MAGAZINE 2003年12月号に掲載されました)
◆筆者プロフィール◆
米焼酎(ペンネーム).30年前,F- 8,8080,Z-80マイコンと出会い,半導体業界にあこがれて二つの外資系半導体メーカを経験.今は,人材コンサルタントの修行中.話をするのが好きで,焼酎があるとお尻に根が張って何時までも飲む癖がある.
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