受託開発の案件を探してくれる会社 ―― 物作りあれこれ(4)
受託の開発・設計をなりわいとしている会社は多い.だが,こうしたビジネスはどちらかと言えば"待ち"の商売になる.よほど信用を積み重ね,特定の顧客から一定の仕事が入って来るのでなければ,「ある時はよいが,ないときは何もない」ということになりかねない.
そこで「受託開発の案件を探してくれる会社」がある.現実に商売をやっておられる会社だから詳細はお話しできないが,ビジネス・モデルとしてはきわめてユニークだ.あるいは,すでにご存じの方もいらっしゃるかも知れない.
平たく言えば「受託代行」である.ただし,仕事が欲しい会社の名前で営業活動を行うのではない.営業活動はその会社として行い,顧客のニーズを吸い上げる.その案件を登録会員に公開し,会員は受ける気があれば挙手する.仮にこの会社をA社とする.A社とその会員会社のX1社~Xn社の間には委託契約があり,経費は年間の先払いとなっている.つまり発注側の本気度が分からぬままに情報を先買いして,その先は自分の責任(買った側の責任)で結果を商売に結びつけなければならない.
ここまではよくできたビジネス・モデルのように感じる.だが気になる点は発注側の本気度である.通常ならば問い合わせ側はビジネスの具体的目的を持って行動するが,この場合のA社は「何かありませんか」式のアクションをかける.そのような営業が来たら,顧客はどのような感情を持つだろうか.
ちょうど頼みたい案件があればマッチングの可能性は大きく,幸運に違いない.だが,いつでもそのようなタイミングに出会うとは限らない.すると,そこに現実的ではない"空想"が混じる.
「責任を持たなければならない」という話ではない.せっかく来てくれたのだから「お土産も必要だ」と考え,そこでの対応は必然的に,思いつきや「こんなものがあったらいいね」式の応答になりがちなのではないか,と邪推する.双方の真剣度に大きな差が存在するのである.
案件の中には,初めから「できるわけがない」と感じたものもあった.少量生産で開発費が極小のLSI開発だった.確か1回の生産量が100個程度,開発費は100万円だったと記憶している.ご存知のとおりLSIと名がつくものは,前工程・後工程という製造プロセスを踏み,シリコン・ウェハ上にできるだけ高密度の設計ルールで回路を作り込み,大量生産するから安くなる.
もちろん,100個で100万円なら画期的に違いない.何かの機会に,あるところからこの要求はNASA(米国宇宙航空局)からの案件だと聞いた.本当かうそか真偽のほどは分からなかったが,ありえない話とも言い切れないし,(筆者の知らない)未来技術なのかも知れない.
受託開発では,発注側は競争力のある製品を求め,受注側も同じような評価によって実績を上げていかなければならない.この業界で,果たして上記のようなビジネス・マッチングの可能性はあるのだろうか.
むらやま・たけし
(株)テクノクリエート
●筆者プロフィール
村山 建(むらやま・たけし).日本電気(株) 伝送通信事業部 開発部門で一貫してデータ・モデムの開発などに従事.その後,技師長として十数年間,主として北米に駐在.帰国後に(株)テクノクリエート(http://www.techno-create.com/)を創設.同社社長として現在に至る.