「OEMの悪者」と呼ばれて ―― 物作りあれこれ(5)

村山 建

 OEMはご存じのとおり,"Original Equipment Manufacture"の略である.そもそもはある会社が気の利いた製品を持っており,それを他社が購入して自社製品らしく見せかけて商売をする手段として用いたもので,その元祖は米国IBM社だと言われている.そう言えば,「OEMでIBM社が購入するときは,市場価格の1/4が常識だ」という話を昔はよく聞いた.

 OEM契約というものは,時流に合った良い製品を持っているメーカがあり,自社にそうした製品がない,あるいは開発を予定しているが市場の要求に間に合わない,といったときに講じられる手段である.製品の権利はOEMメーカ(この言葉の定義も怪しくなっているようだが...)にあり,購入メーカは装置の塗装色や製品のロゴマークなど,マイナな部分,および銘板などの変更を要求し,自社製品らしく見せて発売する.ただし,全体のデザインまでは変えられないので,一見してどの会社の製品かすぐに分かることが多い.

 米国で,日本のある会社の製品のデザインが評判になり,展示会などでどのブースに行っても同じような製品が並んでいるのを見たことがある.ひと目でその会社の製品のOEMだと分かるのだが,米国らしく「良いものは良い」という割り切りで,特に誰も気にしていなかった.OEMというものは自社製品を出すまでの穴埋めだから,せいぜい1年くらいの期間の商品である.それを過ぎると自前の製品が出てくるのが当然だ.

 昔のことだが,海外勤務の長かった筆者がたまたま日本に帰ってきたとき,会社のトップから「日本の大手ユーザに納める新製品が出来上がらず,困っている」と言われた.「米国ニュージャージ州の某社の製品について,OEM契約を結んでほしい」という依頼だった.そこで新製品の開発責任者に会い,「その開発を当面ギブアップする」と宣言するように約束してもらってから米国に戻り,OEM契約を締結した.しばらくたって日本に戻ったところ,OEM契約を結ぶように依頼した当の本人であるトップから,「君は当社の技術開発を遅らせた『OEMの悪者』という評判だよ」と言われた.

 「あなたの依頼でわざわざニュージャージに飛び,無理を承知でお願いしてきたのではないですか!」と食って掛かったが,知らぬ存ぜぬで通されてしまった.経営者というものは,こうした2枚舌,3枚舌を事もなげに使うものだ,ということを知った.今でもその会社は市場での競争に立ち後れ,四苦八苦しているようである.

 先ほど,「OEMはIBM社が始めた」と書いた.OEMで製品ラインのすき間を埋めようとする会社は,開発・製造費は要らないものの,広告宣伝費や関係するシステム構築費などは自社で持たなければならない.そのため,OEM価格は製品の市場価格(Street Price)のおよそ1/3であり,IBM社はこれを1/4としていた.そのため,OEMメーカはあまりもうからなかったはずである.

 かつては,大手のメーカはOEM商売をあまりやっておらず,中小・中堅どころのメーカが多かったように思う.さて,最近はどうなっているのだろう.技術提携や開発協力,生産委託などが入り乱れ,はてはすぐまねをするので何がオリジナルなのか分からなくなっている,という状況なのかもしれない.

 

 

むらやま・たけし
(株)テクノクリエート

 

 

●筆者プロフィール
村山 建(むらやま・たけし).日本電気(株) 伝送通信事業部 開発部門で一貫してデータ・モデムの開発などに従事.その後,技師長として十数年間,主として北米に駐在.帰国後に(株)テクノクリエート(http://www.techno-create.com/)を創設.同社社長として現在に至る.

 

 

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