省エネ，静音家電を実現するモータ制御アルゴリズムの実装事例 ―― dsPICマイコンを利用して3相ACモータを制御

●モータ起動に必要なプログラムを開発

　センサレスの磁界方向制御アルゴリズムは逆起電力の計算に基づいているため，モータは最低限，逆起電力の値が得られるだけの速度で動作していることが要求されます．従って，モータ巻線を適切な推定角度によって励磁する必要があります（図9）．この問題に対処するため，モータ起動サブルーチンを開発しました．その動作は次のとおりです．

　モータが静止状態にあるときに起動/停止ボタンを押すと，dsPIC30F6010Aが一連の正弦波電圧を生成し，モータが回転し始めます．モータが固定加速度で回転している間，磁界方向制御アルゴリズムが電流idとiqを制御します．角度θ（整流角度）は，加速度にしたがってインクリメントさせます．

図9　モータ起動サブルーチン

●アルゴリズムを状態遷移図で表現

　磁界方向制御のさまざまな機能ブロックについて説明してきましたが，全体の制御動作を状態遷移図で示すとさらに理解が深まるでしょう．図10にこれを示します．

　最初はモータ巻線が励磁されておらず，システムはユーザが起動/停止ボタンを押すのを待っています．ユーザが起動/停止ボタンを押すと，システムは初期化状態に移行し，すべての変数を初期値に設定します．次に，モータ起動サブルーチンが実行されます．ここでは，トルクの電流成分（iq）と磁束の電流成分（id）を制御し，一定の割合で増加する整流角度（θ）が生成されます．これによりモータが回転しはじめ，推定機能が動作するだけの最低速度に達します．

　モータ起動サブルーチンの処理が完了すると，システムは磁界方向制御に切り替わり，実行スレッドに速度コントローラが加わります．そして前述のとおり，スライド・モード・コントローラ（SMC）がθの推定を開始します．制御状態に入ると，外付けされたポテンショ・メータによってリファレンス速度が連続的に読み出され，またモータを停止するために，起動/停止ボタンも監視されます．

　システムに何らかの障害が発生すると，モータは停止し，起動/停止ボタンが再度押されるまで，「モータ停止」の状態に戻ります．

図10　PMモータにおけるセンサレスの磁界方向制御の動作を示す状態遷移図
※ 図をクリックすると拡大できます（pdfファイルが開きます）．

●積和演算器を備えるマイコンを使うとカスタマイズが容易に

　積和演算器を備えるマイクロコントローラをモータ制御に適用する最大の利点は，共通のデバイスや共通のソフトウェアを使用できるため，家電製品の開発効率を高められることです．これは，家電メーカがPMモータやその他のモータを搭載したさまざまな製品モデルを低コストで提供できることを意味します．

　この方式は，いわば複数の市場向けに容易にカスタマイズできるソフトウェア・ベースのモータ制御設計とも言えます．ハードウェアを新規に開発する場合と異なり，磁界方向制御アルゴリズムのパラメータや制御ブロックのパワー段を変更するだけでカスタマイズは完了します．

　設計チームが複数の拠点に分散し，共同作業を行うことが多い家電メーカの場合，ファームウェアの知的財産（IP）の保護が重要な課題となります．ファームウェアの各部分の実装，家電製品の前面パネルの開発，および最終的なシステムの統合を異なる拠点にいる複数の設計チームが担当するという状況は十分に考えられます．こうした設計開発においては，各設計チームが自分たちの知的財産の保護を主張します．dsPIC DSCファミリの場合，知的財産保護のためのCodeGuard機能（マイクロコントローラの内部に書き込んだプログラムを領域別に保護する機能）を提供しています(3)．
 

参考URL
(1) Microchip Technology社のWebサイト，http://www.microchip.com/
(2) microchip DIRECT（dsPICDEM MC1 Motor Control Development Boardを購入可能），http://www.microchipdirect.com/
(3) CodeGuard Security（知的財産を保護する機能），http://www.microchip.com/codeguard/

Jorge Zambada
Applications Engineer，Digital Signal Controller Division，Microchip Technology社