遊技機で実績のあるマイコン技術を組み込みシステムへ展開する―― 「ET アワード2011」受賞企業インタビュー(5) エルイーテック

Tech Village編集部

tag: 組み込み 半導体

インタビュー 2011年12月 6日

ET アワード2011全5部門の中の 最優秀賞はエルイーテックの「高レジリエンス・マイコン技術」が受賞した.ここでは,暴走状態を回避できるマイコン技術の概要について,同社のExecutive Coordinatorである石井 孝一 氏と技術本部 本部長の辰野 功 氏(写真1)に話を伺った.

 インタビュー 「ET アワード2011」受賞企業インタビュー バック・ナンバ
第1回 組み込み用途にはヘテロジニアスなマルチコアが向いている
第2回 マルチコア化への第1歩は,シングル・コア上で動いているソフトウェアの解析
第3回 組み込み技術の新しい可能性を示し,新しい市場の創出に貢献したい
第4回 ゲーム業界で培った技術を組み込みシステムに応用する


写真1 エルイーテック 技術本部 本部長の辰野 功 氏(写真左)とExecutive Coordinatorの石井 孝一 氏(写真右)

 

―― 最優秀賞を受賞した製品の概要を聞かせてください

石井氏:受賞した製品は,ノンストップ・マイコン技術の「FUJIMI」となります.ET アワード2011へは,「ノンストップ・マイコン技術」として応募しました.しかし,受賞の連絡をいただいたとき,審査委員の方から「高レジリエンス・マイコン技術」と言ったほうが適切であるとの説明を受けました.「レジリエンス(resilience)」には「障害が発生しても,要求された機能を遂行し続ける」と言う意味があるようです.「FUJIMI」は,止めてはいけないマイコンに対して,周期的にマイコンのコアをリセットして,割り込み処理で復帰処理などを行う技術です.

 

―― どのようにしてこの技術を実現していますか?

辰野氏:FUJIMIの技術を理解してもらう前に,この技術の背景を説明します.OPアンプやロジックICは,1度壊れてしまうと再度動かすことはできません.しかしマイコンは,中途半端な状態で止まることがあります.例えば,ソフトウェアの不具合やノイズなどの外的要因でマイコン自身は壊れていないのに想定した処理が行われなくなる場合があります.このような場合,電源のリセットによって再びマイコンは動きだします.しかし,遊技機(パチンコ)などに使われているマイコンのように稼動中にリセットをかけられない場合もあります.
 
 23年前にマイコンが遊技機の制御に利用されるようになったとき,搭載されているマイコンには,止まらないことが求められました.遊技機の環境はマイコンにとって非常に悪く,パチンコ玉の摩擦による静電気やノイズが発生していました.しかも法的な問題があり,マイコンを金属などでシールドするようなノイズ対策が取れませんでした.そこで,私たちは,シンプルなタイマ回路を使って,周期的にマイコンにリセットをかけるようにしました.遊技者から見れば,「止まらないマイコン」を実現しました.このリアルタイム・リセットの技術について特許の申請はしませんでしたが,私たちが初めに開発し,現在では全てのパチンコ機器に利用されていると思います.

 

―― 遊技機に使われている技術をそのまま利用しているのですか?

 FUJIMIは,この技術を基に,OSやアプリケーションが動く組み込み製品向けに進化させたものです.特徴は,応用プログラムの動作中に,周期的に最上位の割り込みとリアルタイム・リセットをマイコンに与えます.応用プログラムの処理に異常が発生した場合,過去の正常な時点の状態に戻れるように復帰のためのデータをスタック内にコピーして保存し,マイコンのリセットを行います(図1).

 リセットを行う頻度は,機器によって変わります.当初,遊技機は4ms(ミリ秒),1秒間に250回の頻度でリセットを行っていました.現在では,センサなどを搭載しているので例えば2ms(1秒間に500回)になっています.一方,エレベータの制御であれば,10 ms(1秒間に100回)で十分だと思います.

 また,遊技機の場合は,制御ソフトをアセンブリ言語で記述していましたが,FUJIMIではプログラムをC言語で記述できます.ただし,開発環境にフルICEを使う場合はデバッグ中にリセットがかかってしまうので,情報が取得できません.なんらかの対策が必要になります.JTAGデバッガ(JTAG ICE)であれば,問題はありません.

 

図1  FUJIMIの動作図

 

―― どういう市場を対象としていますか?

石井氏:止まらないマイコンが必要とされている市場であれば,どこでも需要はあると考えています.例えば,人がなかなか入れない地域などに設置するセンサや自動車のエンジン制御,ステアリング制御などです.また,産業用ロボットや医療機器などに利用できると思います.組み込み機器にも,遊技機並みの止まらないマイコンが必要とされてきたのだと思います.

 

―― 今後の製品開発の方針やロードマップを教えてください

石井氏:すでに,FUJIMIの機能を実装した,8ビット・マイコンのサンプルを香港のDragonchip社で製造しました.32ビット・マイコンは,現在日本のメーカと開発を進めています. また,広く市場で採用していただくための制御ファームウェアの開発なども必要と考えております.

 

―― ET アワード2011を受賞して,何か変化はありましたか?

石井氏:日本のメディアや海外のメディアから多くの取材依頼がありました.この技術がET アワード2011で認められたことから,現在国内で進めている32ビット・マイコンの計画にもはずみがつくと思います.また,多くの来場者にブースへ立ち寄っていただき,大変喜んでいます.

 

ETアワード2011 審査委員のコメント
本技術は,MPUのみを周期的にリセットする一方で,リセット直前の状態を保持することで,MPUの動作に異常が発生しても,リセットの周期分で異常発生前の直前の時点からシステムを再開できる高度なレジリエンス機能を提供する技術である.本技術は異常事態への耐性を提供するという観点のみでなく,システムのログ管理,異常発生時の解析など新たなソフトウェアツールのマーケットも創出するものであり,我が国の組込みシステムの競争力強化に広く貢献することが期待できる.

http://www.jasa.or.jp/et/ET2011/event/etaward.html 

組み込みキャッチアップ

お知らせ 一覧を見る

電子書籍の最新刊! FPGAマガジン No.12『ARMコアFPGA×Linux初体験』好評発売中

FPGAマガジン No.11『性能UP! アルゴリズム×手仕上げHDL』好評発売中! PDF版もあります

PICK UP用語

EV(電気自動車)

関連記事

EnOcean

関連記事

Android

関連記事

ニュース 一覧を見る
Tech Villageブログ

渡辺のぼるのロボコン・プロモータ日記

2年ぶりのブログ更新w

2016年10月 9日

Hamana Project

Hamana-8最終打ち上げ報告(その2)

2012年6月26日