フレッシャーズのための組み込みソフト開発講座 ――新人エンジニアがまわりの信頼を勝ち得るには...
●今の若手技術者はたいへん
入社年度からもわかると思いますが,筆者はいわゆる「バブル組」です.「会社見学に行ったら,『内・内定』をもらえた」というほど,就職には困らない時代でした.ここ数年の就職氷河期を経験してきている若い人たちには申しわけないと思う反面,ある種の敬意と同時に「厳しさをくぐりぬけてきた優秀さ」を期待しています.
筆者が社会に出たころは,1987年にリアルタイムOSの「ITRON 1」の仕様が発表されるなど,組み込みソフトウェアが本格的に工業製品に応用され始めた時期でした.筆者はシステムがそれほど複雑でない時期からこの仕事に携わっていたので,その後の技術の進歩にかろうじてついていけました.しかし,システムが複雑になり,さらに日々その複雑さが高度になっている今の時代に,大学・大学院を修めたとはいえ,新米の人たちがこの世界に入ってくるのはたいへんなことだと思います.配属先では,よく「こんなこともわからないのか!」と言われたりすると思いますが,先輩たちは何年もの技術の蓄積があるからこそ「わかる」のです.しかし,そんなことを言っても,要求は高度に,システムは複雑に,そして技術は進歩していきます.たとえやるべきことが多くても,何とかして追いつかないわけにはいきません.
「今の学生はたいへんだ.50年前の大学教授の知識を学校で修めないといけないのだから」と晩年ノーベル物理学賞を受賞された湯川秀樹博士がおっしゃったそうです.それほど科学技術の進歩は速く,また,後から来るものは先人たちが残した膨大な知識や知恵を取り込む必要に迫られます.これはどうしようもありません(図1).
組み込みソフトウェア開発の分野で言えば,まず,覚えなければならない項目が増えています.かつては単機能だったので,CPUと周辺回路を押さえておけばなんとかなりました.しかし今では,通信(特にネットワーク),それに伴うセキュリティなどの知識があたりまえに必要となっています.また,近年,以前にも増して「ソフトウェアの品質」が重要となっており,品質にかかわる規則や知識が必須になってきています.加えて,オブジェクト指向プログラミング言語のような開発方法論を知らないと,コーディングすらまともにできなくなっています.
また,内容も複雑になっています.CPUは高速化のためにさまざまな手法を取り入れています.CPUの本質的な機能は変わっていないので,Z80のような簡単なCPUで基本を理解すればよいのですが,実際に製品に搭載されるCPUについては,なかなかその詳細を理解するひまがありません.
〔図1〕今の若手技術者はたいへん
後から来るものは先人たちが残した膨大な知識や知恵を取り込む必要に迫られる.これはどうしようもない.
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