エンジニアの「外に出てみた」体験記(3) ―― 自分のスキル不足は見て見ぬふりで過ごした日々

畠山 さつき

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コラム 2013年3月 1日

エンジニアが初めて外に出てみたときの体験談,第3回である.プライベート優先で過ごしてきた筆者が危機感を覚えて試行錯誤し,外に飛び出してからの7カ月間を語る.(編集部)

 筆者は,出向エンジニアとして8年過ごしてきましたが,外に飛び出してからはまだ7カ月の新参者です.それまでは「おいしいものを食べるために仕事をしている」なんて名乗るくらい,食べ歩きが大好き&プライベート優先の日々を送っていました.文系未経験からこの業界に入り,最初に携わったプロジェクトに6年.プロジェクト内では「テストの自動化」に携わっていました.6年もいるとプロジェクト内のその分野ではある程度名前を覚えてもらうことができ,携わっている仕事に満足していました.それ以外のスキルは,何もありませんでした.


●スキルアップを試みるも...

 スキルの幅が狭いことに全く焦りがなかったわけではありません.社内の有志で勉強会を立ち上げたこともありましたが,業務が忙しいことを理由に人が集まらなくなり,長くは続きませんでした.上司から言われるがままに資格の勉強をしたこともありましたが,興味のない分野だったため身が入らず,今もそのときに取得した資格は名ばかりになっています.そして,技術雑誌や社外の勉強会,メーリング・リストなどは「自分とはレベルが違う」と思い込み,近寄ろうともしませんでした.結局,「自分はどんなことができて」,「何をしたくて」,「何が足りないのか」が見えていなかったのだと思います.

 転機になったのは,6年続いたプロジェクトが終わり,新しいプロジェクトに移ったことでした.ここでも運良く「テストの自動化」の仕事に携わることができましたが,いよいよ手に職をつけておかないと,与えられた仕事をこなすことしかできなくなるのではないか,と危機感を覚えました.そうしてようやく,自分はどんな仕事をしていきたいのかを探ってみて見つけたのが「テスト・エンジニア」という職種でした.今までの経験を生かせる職種だと思い,一念発起したのですが,周囲に同志は一人もいませんでした.

 筆者はまず,「JSTQB(Japan Software Testing Qualifications Board;テスト技術者資格認定)」という資格を見つけ,勉強を始めました.勉強しているうちに,今まで経験してきたふわふわとした知識が整理されていきました.それと同時に,「テスト」という分野だけでも知らないことが山ほどあることも分かってきました.無事に資格を取得したものの,同志や理解者はいないままで,机上の知識と「テスト・エンジニア」という言葉だけが,相変わらず宙に浮いていました.


●勉強会に初参加してみた

 本当にテストだけで食べている人はいるのだろうか? みな,どうやって勉強しているのだろうか? わらにもすがる思いで「ソフトウェアテスト 勉強会」と検索してみました.そこで見つけたのが「WACATE(Workshop for Accelerating CApable Testing Engineers)」というワークショップ合宿でした.泊まりがけというハードルの高さはありましたが,「若手向け」という言葉に思いっきり甘えることにして,新しい世界が開ける予感にワクワクしながら当日を迎えました.

 WACATEではリピータが初参加者を案内し,ベテランが若手を支援します.手を動かしながら学ぶことができるワークショップ形式は,参加者同士の交流も活発にします.多種多様のドメイン知識やスキルを持ったモチベーションの高い人たちが集まり,非常に刺激的でした.息をつく暇もないほど充実したこの2日間は,私にとって大きな一歩となりました.


●「たくさん失敗しよう」と決めた

 WACATEに参加して感銘を受けたアドバイスは「たくさん失敗してください」というものでした.失敗を許容する文化に勇気と自信をもらい,その後も,つながった人の輪を頼りに,新しい扉を次々に開けてみました.

 まず,テスト計画書すら見たことがないぐらい初心者だったのに,WACATE2012 夏の初参加者でチームを組み,2012年秋に開催された「テスト設計コンテスト'13」の予選に出場しました.全力は尽くしたものの設計まで至らず,結果は玉砕でしたが,皆の知識や経験を持ち寄って計画や分析に挑戦したことは,間違いなく自分の経験値アップにつながっていると思います.

 WACATE2012 冬では,前回のWACATEでBPP(ベスト・ポジション・ペーパ)賞をいただいた副賞として,30分の単独セッションを担当させていただきました.人前でプレゼンした経験はなかったのですが,テーマは自由ということだったので,どのような内容であれば参加者に満足してもらえるかを考えたり,資料を作ったりと初めてづくしでした.話し方の練習までは間に合わず,反省点は多々あったのですが,初めて最後までやりきった達成感を味わうことができました.参加者からも「良かったよ!」と声をかけていただき,嬉しかったです.

 そして,2013年1月に開催された「ソフトウェアテストシンポジウム 2013東京(JaSST'13 Tokyo)」では,テスト自動化研究会のメンバの一人として登壇しました(テスト自動化研究会に参加したのは7月からで,これもWACATE2012 夏でご一緒した人に紹介してもらったのがきっかけである).今回がテスト自動化研究会の初めての表舞台,参加者も200人規模と聞き,責任感が重くのしかかりました.一緒に登壇する皆さんと何度も打ち合わせを行って内容を練り,リハーサルや発表の練習を経て,当日は堂々と発表することができました.

 「失敗は成功のもと」という言葉がありますが,今までの筆者はこの言葉を,失敗したときの自己肯定のために使っていました.しかし,外に出てからは,新しいことに挑戦するときに自分を励ます言葉として用いるようになりました.たった半年ではありますが,これらの経験は仕事に対する自信につながっています.これからも積極的に活動を続け,次の半年は「自分の将来像が見えること」を目標にしたいと思います.


●したいこと,好きなことならなんとかなる

 外に出るようになり,プライベート優先だった日々にも多少の変化がありました.ちょうど外に出たタイミングと業務が忙しい時期が重なり,稼働が250時間になる月もありましたが,それも合わせて,意欲があればなんとかなるものだと実感した半年でもありました.多くのことをこなすためには,時間をうまく使わなければなりません.限られた時間を,どんどん増えるやりたいことのためにどのように配分するか.要は時間の使い方次第なのです.仕事と勉強と遊びと,もちろん休息も必要です.時間を上手にやりくりして,ごほうびにビールを飲む.最高です!

 やる気の伴わない勉強にここまで時間を割いて成果を出せたかというと,答えはノーです.もし「上司から言われたから」というネガティブな理由で勉強を始めようとしている人がいるのであれば,「自分は何をしたいのか」,「自分は何が好きなのか」を見つけるところから始めてほしいと思います.


●外から見て分かる「自分の価値」

 自分が打ち込める「何か」を見つけるために外の世界をのぞいてみる,というのも一つの方法です.また,「自分は何をしたいのか」が見えていて一人黙々と突き進んでいる人にも,ぜひ,外の世界に触れてほしいと思います.たくさんの出会いを経て,一人では気付くことができなかった自分を再発見する機会になるかもしれないのです.

 「自分の価値は,自分ではなく他人が決めるもの」.これは外に出て教わったことです.「たいしたことがない」と思っていたことに実は大きな価値があるかもしれませんし,「できる」と思っていたことに実はもっと上があるかもしれません.自分に壁を作らず,慢心しすぎず.外の世界は案外,入り口が広く,失敗に寛大です.気負わずに,まず1歩.2歩,3歩と歩みを進めるうちに,自分の目指す姿が見えてくることでしょう.

 

はたけやま・さつき

 

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