米国発クリーンテック便り(7) ―― 米国電気自動車事情 part 2,Networked EV会議よりの考察

安藤 千春

tag: 組み込み 電子回路

コラム 2011年12月14日

 2011年10月20日に,米国カリフォルニア州San Franciscoにて,EV(電気自動車)とスマート・グリッドをテーマとしたイベント「Networked EV 2011」が開催されました.今回は,そのレポートをお届けします.主催は,米国で環境関連技術(CreanTech)を取り扱うメディアとしては最大級のGreentech Media社です.

コラム・連載「米国発クリーンテック便り」 バック・ナンバ
第1回  ベンチャ群雄割拠の電気自動車充電インフラ・ビジネス
第2回  トーマス・エジソン vs. ニコラ・テスラ,130年後の決着
第3回  直流送電を前提としたインフラ整備の検討が進んでいる
第4回  米国電気自動車事情,いよいよ普及か?
第5回  「発電」と同じくらい重要な「蓄電」の米国事情
第6回  ギガワット級の太陽熱発電所を建設,分散型発電の課題に対応できる送電網を構築へ

 

 本イベントは,San Franciscoの地元大手電力会社であるPacific Gas & Electric(PG&E)社の講堂を借りて行われました.EVの車両そのものというよりも,EVと送電網の関係といった視点が中心です.テーマが専門的であるせいか,午前中の開始時は会場の半分以上が空席で,まだ米国におけるEV普及の「本格化」は始まっていないのか,という印象もありました.

 

●2011年は米国の「EV元年」

 しかしその一方で,昨年から1年の変化を見ていると,2011年を米国の「EV元年」と呼んでもさしつかえないように思います.昨年(2010年)の同じ時期に開催された「Networked EV 2010」では,基調講演さえも,まだ「EV革命」が本当に起こるどうか分からない,といったトーンでした.1年たった今年,大手自動車メーカのほとんどがEVの開発・発売を表明しています.米国市場でもすでに,日産自動車のリーフ,やGeneral Motors(GM)社のVoltが発売され,全米での販売台数累計は11,000台と推定されています.この1年で市場の見方が大きく変わったと言えるでしょう.

 米国の調査会社であるTIAXによるEVの導入予測(米国市場)は図1のとおりです.

 

図1 EVの導入予測(出典:PG&E社発表)

 

 また来年(2012年)には12~15の新モデルの導入が予定されており,米国,日本,欧州の大手自動車メーカ,およびTesla Motors社などのベンチャ企業のEVが出そろうことになります.

 ただし,こういった黎明(れいめい)期にある業界の「市場予測」は,あまり当てにならないと言えそうです.数社の調査会社やシンクタンクなどが予想を発表していますが,同じような前提に基づいて計算しながら,2020年の市場規模の予測は2百万台から2,000万台まで,ばらつきがあります.

 

●カリフォルニアは再生可能エネルギー・環境への意識が高い

 今回の会議のスポンサで,場所を提供したPG&E社はカリフォルニア州のSan Francisco地域の電力・ガス会社ですが,全米でも再生可能エネルギーへの取り組みが進んでいることで知られています.また,同社の管轄下のSan Francisco Bay Area(一般に「シリコンバレー」と呼ばれる地域を含む)は再生可能エネルギー・環境への意識が高い住民が多く,EVについても,全米7,000台,全世界10,000台のリーフのうち,約2,000台が同社のサービス地域で保有されています.カリフォルニア州全体について見ると,全米の約11,000台のEVのうち約4,000台がカリフォルニアにあります.

 

●EVの普及には補助金や税控除以外の施策も必要

 現在のところ,EVの主なユーザ層は,「アーリー・アダプタ(Early Adapter)」と呼ばれる,環境問題への意識が高く,新製品を試したがる消費者,および特殊用途,それにセカンド・カーなどに限られています.今後のEVの普及にとって鍵となるのは原油価格の高騰,電池技術の画期的な改良による低価格化と走行距離の向上,それに政策の後押し,とされています.

 政策によるサポートについては,日本でも人気のある補助金や税控除などもありますが,金銭的な優遇策だけではありません.米国でプリウスなどのハイブリッド車が普及した要因の一つは,「カープール(相乗り)レーン」の使用を可能にするステッカだと言われています.

 州や地方によりますが,米国では通勤時の交通渋滞のときにカープール(相乗り)している車は特別のレーンを通り,すいすいと運転できる高速道路があります.ハイブリッド車の発売当初,カリフォルニアなどでは,ハイブリッド車に特別の「通行許可ステッカ」を配布し,この特別高速レーンを一人乗りでも使用できるようにしました.通勤時の渋滞が頭痛の種のカリフォルニアでは,これが大変な人気となり,例えば,トヨタのプリウスの2010年末時点でのカリフォルニアの所有台数が22万台を超える大きな要因ともなりました(ちなみに全米のプリウス所有のうち10万台以上はカリフォルニア州のみ.2位のテキサス州は約4万台).

 

●EVの経済性は地域によって異なる

 前述の「アーリー・アダプタ」による購入が一巡したあとのEV市場の拡大のためには,「経済性」を追求する一般消費者にすそ野が広がる必要があります.車をリースで買う消費者が多い米国では,EVの購入についても,初期コストを比較的短期間で取り戻すため,ガソリン車と比べたときの維持費用の経済性が重要となります.これには,大きな二つの要素,すなわち初期コストが下がること,およびガソリン価格が上がってEVの相対的維持費用が格段に有利になること,が必要です.

 このEVの相対的経済優位性は,電力価格とガソリン価格の差が大きいほど優位です(表1).Greentech Media社の分析によれば,この差が大きい欧州などが一番優位で,日本は中間で,ガソリン価格が比較的安い米国ではEVの経済性はそれほど優れていない,ということになります.

 

表1 EVの電力コストとガソリン価格の比較

①と②の差が大きいほど,EVが経済的.(出典:Greentech Media社発表をもとにCando Advisors社で編集)

 

●スマート・ハウスは電力会社にとって大問題!?

 電力の供給についてはどうでしょうか.米国では2015~2017年くらいにEVが年間約100万台の市場になるとの予測があります.これに対する供給電力については,1,000万台のEVに必要な電力は米国の電力総使用量のわずか約0.5%とのことなので,とりあえず現時点では十分と言えそうです.電力の総供給量が十分であれば,一見すると,電力需要の少ない夜間(オフピーク時)に充電できるEVは,電力会社にとってはありがたいはずです.では,「EVの普及の予測」がなぜ,電力会社にとって大問題なのでしょう.

 本会議では,「EVの普及はスマート・グリッドの必要性を促進する.逆に,スマート・グリッドなしでEVが普及したら大変」という主張がなされていました.もともと,米国には送電網(グリッド)が脆弱な地域がたくさんあります.台風でなくても暴風雨程度ですぐに停電,また夏の酷暑の日にみんながエアコンをいっぱい使えば電力不足で停電,といった状況です.高速EV充電は,「エアコンをフルパワーでつける状態」に相当するため,送電網の準備ができていないうちにみんながこれをいっぺんに導入すると,頻繁な停電の危険がある,というわけです.

 EVを含めた,環境に良い「ネットゼロ」の住宅(いわゆるスマート・ハウス)は,電力会社側にとっては今までの送電網システムを大幅に更新しなければならない,という課題があります.太陽光パネル,EVやプラグイン・ハイブリッド車,スマート・メータ,「スマート」電力制御装置,それに蓄電池などを備えた新世代の住宅には,今までの,一方的に配電するのとはまったく異なる計算・制御が必要になります.

 

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