米国発クリーンテック便り(4) ―― 米国電気自動車事情,いよいよ普及か?

阪口 幸雄

tag: 電子回路

コラム 2011年1月25日

 米国で車を買いにディーラへ行くと,新車には必ず「ステッカ(Sticker)」と呼ばれるA4くらいの紙が張ってあり,そこには「燃費(MPG:Miles Per Gallon)」が大きな数字で書かれています.この「1ガロン(=3.8リットル)当たり何マイル(=1.6km)走れるか」の項目には,米国EPA(Environmental Protection Agency;米国環境保護庁)が規格に従って測定した数値が記載されます.

 

 

コラム・連載「米国発クリーンテック便り」 バック・ナンバ
第1回  ベンチャ群雄割拠の電気自動車充電インフラ・ビジネス
第2回  トーマス・エジソン vs. ニコラ・テスラ,130年後の決着
第3回  直流送電を前提としたインフラ整備の検討が進んでいる


 さて,電気自動車です.当然ですが,ガソリンは入れません.でも,燃費を測定しなければなりません.日産自動車の新しい電気自動車「Leaf」の販売が先月(2010年12月),米国の5州(カリフォルニア州,オレゴン州,ワシントン州,アリゾナ州,テネシー州)で先行して始まりました.これに先立って,EPAが燃費と航続距離を測定して発表しました.燃費は99MPG(=41.7km/リットル),フル充電時の航続距離は73マイル(=115km)とのことでした.で,「Leaf」のステッカは図1のようになります.

図1 日産自動車「Leaf」のステッカ
出典:Wikipedia

 

●燃費はガソリン量に換算して算出

 さて,この数字が良いのか悪いのかは別にして,興味があるのは電気自動車の燃費をどのように決めたのか,ということです.EPAによると,「1ガロンのガソリンは33.7kWh(キロワット時)の電力に相当」という換算式を用いたようです.33.7kWhは,1000Wの電気ストーブ33.7台を1時間使ったときに消費する電力に相当します.これは,米国の普通の家庭が1日に使う電力よりもよっぽど多い数値です(ちなみに,筆者の家では1日平均で15kWh程度を使用する.暖房や湯沸しにはガスを利用している).

 さて,これを金額に換算すると幾らでしょうか? 本コラムの第2回で書いたように,全米には3000近い電力会社があり,それぞれが違う料金体系を持っており,電気代は州や地区によってかなり異なります.例えば筆者の住んでいるシリコンバレーあたりでは,1kWhで0.12ドル程度です.全米平均もほぼ同じ0.1162ドル.33.7kWhをこの全米平均電力単価で計算すると,3.91ドルに相当します(東京電力は120kWhまでが17.87円,300kWhまでが22.86円,それ以上が24.13円).

 ちなみに米国の電気代は本当にピンキリで,米国DOE(Department of Energy;米国エネルギ省)のWebページによると,州平均単価が一番高い州がハワイ州の0.2791ドル,一番安い州がワシントン州(首都ではない)の0.0795ドルで3.5倍の差があります.カリフォルニア州は平均で0.1524ドルだそうです.

 話がそれましたが,次にガソリン代です.これも場所によって大きく異なりますが,やはり筆者の住んでいるあたりでは,真ん中のグレードで1ガロン当たり3.20ドル程度(1リットル当たり69円,1ドル82円換算)です.去年の一番高いころは4ドル前後しており,これは上記の電気代で換算した額とほぼ一致します.

 こうしたことを考えると,もともと電気自動車の燃費をガロン単位で換算するのはかなり無理があります.どうやら,高かったころのガソリン代と全米平均の電気代を元に計算したようです.燃費で考えると分かりにくいですが,3.20ドル(=262円)で99マイル(=158km)走れると考えると,「おっ,安い」と思ってしまいます.ハイブリッド車と異なり,ガソリン・タンクやエンジンを持たないぶん構造は単純で,軽くて安く製造できます.ただし,米国ではあくまでも100km以内のお買い物用,通勤用のセカンド・カーという位置づけになるでしょう.

●日本発のLevel 3高速充電規格に注目

 本コラムの第1回で充電インフラの動向について記載しました.この1年間で進展したとは言っても,まだまだこれからの状態です.

 標準化の主導権争いはし烈です.電気自動車というと,米国ではFord Motor社の「Focus」,General Motors (GM)社の「Chevrolet Volt」,ベンチャ企業であるTesla Motors社の「Model S」が有名ですが,米国メーカの作る充電プラグには,SAE(Society of Automotive Engineers)J1772という規格に基づいたコネクタが使われます.これは,交流の120V / 240Vという家庭やオフィスに来ている電源をそのまま使える仕様になっています.120V(AC Level 1)における電流は16Aで,電力は120V×16A=1.92kWです.240V(AC Level 2)では30A(規格上は80A)で,240V×30A=7.2kWです.日産のLeafクラスのバッテリ(24kWh)では,レベル1で満充電まで約16時間,レベル2で満充電まで4~8時間かかります.

 通常,電気自動車は100km以内の通勤や買い物に使い,自宅で夜間に充電するケースが多いと思われますが,それでも外部に充電ステーションがないのは不安です.また,外部の充電に4時間もかかっていたのではたまりません.そこで,高速充電(Level 3)の規格が必要とされています.

 SAEがLevel 3の策定に手間取っている間に,日本発のLevel 3高速充電規格(JARI Level 3)が米国でもにわかに注目されています.この規格では,直流の440Vを利用して30分で80%まで充電できるそうです(80%を越えると,いっきに充電効率が落ちる).日産のLeafにはちゃっかりとJ1772(写真1の右)とJARI Level 3(写真1の左)の両方のアダプタが載っています.三菱自動車の「i-MiEV」にも,同じように両方載っています.

写真1 Leafの充電アダプタ
出典:Wikipedia

 

 このJARI Level 3規格の良い点として,「直流であるため,世界中にいろいろな方式が存在する交流の規格とは関係なく使える」,「車両側のLi(リチウム)イオン電池に負担がかからないように,CAN通信によって車両と充電器が交信し,電池の状態に応じて最適な充電電流を供給する」が挙げられます.これは,本コラムで筆者が主張している「直流→交流→直流」の3層構造にもマッチします.ただし,直流の発電源から直接引っ張って来ないかぎり,交流→直流の変換装置が必要で,これにはLevel 2の2,000ドルよりかなり高い18,000ドル程度の費用がかかります.すなわち,外出先に設置される充電ステーション向けです.とりあえず,全米で510台のJARI Level 3ステーションが設置されるそうです.

 世の中,先に一般的になったもの(デファクト・スタンダード)が勝ちというケースが少なくありません.多少割高になっても,二つのプラグを載せた電気自動車が先に道路を走り出すと,当然,インフラもそれにつられて整備されていくかもしれません.日本のメーカのねらいもそこにあるのでしょう.このJARI規格は東京電力が取りまとめたようですが,これは日本の得意な「民間企業による擦り合わせ」のたまものです.筆者としても,なし崩し的に主導権を取ってほしいと願っています.

 なお,この日本発の規格は,その名を「CHAdeMO」と言います.「Charge de Move」の略なのですが,「充電している間にお茶でも飲んでてください」という意味もあるそうです.このダジャレ感覚が実に素晴らしいと思います.ぜひ世界規格になって,日本のダジャレを世界に広めてほしいところです.「CHAdeMO」の詳細については,こちらを参照してください.

●44マイル(70km)の往復で約15ドル(1230円)の節約になる

 それやこれやで,米国では電気自動車が普及する環境が整いつつあります.燃費が良いと言われるトヨタ自動車の「Prius」のEPAによる燃費は50MPG(Miles Per Gallon),日産のLeafの燃費はその2倍です.充電ステーションも整いつつありますし,家庭のガレージに設置する充電装置の値段もそこそこになって来ました.

 ちなみに筆者が住んでいるMountain View市からSan Franciscoの中心地(Union Square)までは片道44マイルです.満タンに充電しておけば,十分に行って帰って来られます.筆者が乗っているガソリン車の燃費が15MPGなので,88マイル÷15MPG=5.8ガロン消費し,これは18ドルのガソリン代に相当します.反対にLeafの電池の24kWhを充電するのには24kWh×0.12ドル/kWh=2.88ドルの電気代が必要なので,1回の往復で約15ドル節約できます(夜間の割引電気代を使えばもっと安くなる).これを安いとみるかどうかは,各人の判断になりますが....

 

さかぐち・ゆきお
yukio@sakaguchi.org
http://d.hatena.ne.jp/YukioSakaguchi/

 

◆筆者プロフィール◆
阪口 幸雄.シリコンバレー在住25年.もともと半導体技術のベテランで,CQ出版が発行していたDesign Wave Magazineにも数度登場.最近,環境技術をあれこれ勉強中.「地球環境を守ることとビジネスの発展は両立する」がモットー.

 

 

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