米国発クリーンテック便り(3) ―― 直流送電を前提としたインフラ整備の検討が進んでいる

阪口 幸雄

tag: 電子回路

コラム 2010年12月28日

 前回,交流送電と直流送電の話を書きましたが,考えてみると私たちの周りには直流を使う機器が少なくありません.ほとんどの家電品,特にディジタル家電は直流で動きます.パソコンしかり,薄型テレビしかり,DVDプレーヤしかり,LED照明しかり.これらは,機器内で直流に変換します.交流のままで動くのは白熱電灯とか,交流モータで動く洗濯機とか,電気ストーブくらいではないでしょうか?

 

 

コラム・連載「米国発クリーンテック便り」 バック・ナンバ
第1回  ベンチャ群雄割拠の電気自動車充電インフラ・ビジネス
第2回  トーマス・エジソン vs. ニコラ・テスラ,130年後の決着

 交流から直流に変換すると,エネルギーのロスが起きますし,ノイズの原因にもなります.最近はやりのLED照明器具も,その小さな電球の中で交流から直流への変換を行っていますが,発熱するし,電力の無駄になるし,設計によってはノイズが発生します.

 考えてみると,屋根の上にある太陽光発電パネルが直流電力を発電しているのに,それを一度交流に変換して各家電品に供給しているのですから,「直流→交流→直流」といった無駄な手順を踏んでいることになります.ただし,太陽光発電パネルから直流で家の中にある家電品やLED照明に給電することは,そう簡単ではありません.太陽が出たり曇ったりするたびに照明が明るくなったり暗くなったりするのは困ります.瞬発的に大きな電力が必要になる場合もあります.

●太陽光パネルの直流電力を直接利用するための電源装置が登場

 そのあたりを解決しようと日本のメーカもいろいろ提案していますが,米国ではNextek Power Systems社などがすでに製品を出しています.同社のWebページの左下にあるアニメーションはなかなか面白いので,ご覧あれ.

 この会社の「Network Server Module」という製品は,どちらかというとオフィス向けです.太陽光発電パネルからの直流電力と,外部からの交流電力(を直流に変換した電力)を入力として,バッテリ・バックアップを使いながら安定した直流電力を供給するようです.1台に24Vの直流コンセントが16個あります.価格がいくらか分かりませんが,安く入手できるのであれば,家庭でも利用できるかもしれません.ただし,直流で光る「LED電球」が手軽に手に入るようにならないといけませんが....

●データ・センタの省電力化も直流配電で

 大きな省電力化が望まれるものとして,データ・センタがあります.データ・センタの最近の傾向としては,なるべく寒冷地に設置し,サーバの入ったコンテナを屋外に野ざらしにして自然冷却させるとか,機器が熱くなっても空調を入れないでただ停止してしまい,処理をほかのセンタ(例えば,地球の裏側)にリアルタイムで移してしまうのだそうです.なお,データ処理を昼夜が逆の場所にあるセンタに渡すことを「FOLLOW THE MOON」と言うそうです.もちろん,これらとは反対に「完全装備・完全空調」の豪華なデータ・センタもあります.

 データ・センタには膨大な数のサーバがあり,現状では各機器の中で「交流→直流」変換が行われています.ここのロスを減らすために,一括して直流への変換を行い,各機器に直流で給電する方法が考えられます.こうしたデータ・センタ内のサーバやネットワーク機器への直流配電をターゲットとしているのが米国Validus DC Systems社です.こちらのWebページに,Syracuse大学のデータ・センタで採用されたという記事が掲載されています.

 この会社には,中国やシンガポールのデータ・センタ運営会社が頻繁に訪問しているとのことです.

●米国では直流送電で消費地まで運ぶ計画を検討中

 前回書いたように,風力などの自然エネルギーを使う発電装置は,既存の交流電力網の「疎」なところに作られるケースが多いこともあり,高圧の直流送電線がPoint to Pointで電力網の密なところ(すなわち消費地)まで電力を運ぶようになってきました.NREL(National Renewable Energy Laboratory;国立再生可能エネルギー研究所)の出している長期計画の高圧直流送電網の計画図を図1に示します.


図1 NRELの高圧直流送電網の計画
出典:gteentechgridの記事"Will Solar, Wind and New Tech Pave the Way for a DC Renaissance?"など


 NRELは,全米を直流送電でつなごうとしています.こうやってみると,一見「網」のように見えます.ところどころに交流電力網へのアクセス・ポイントを持っています.この計画でも,送電ロスをなくすために電線を地下に埋め,かつ送電線に液体窒素を流して極低温にして,超伝導を用いるそうです.

 図1から分かるように,風力発電(Wind)が盛んな米国の中北部,太陽熱/太陽光発電(Solar)が盛んな南西部で発電した電力を,全米の消費地に無理なく配ろうというのがこの計画のターゲットです.また,米国には四つの時間帯があり,東部と西部で3時間の時差があります.東部が動き出す朝の8時は,西部ではまだ朝の5時で,多くの人がまだ寝ています.西部でがんがん冷房を入れる夕方の4時は,東部ではすでに夜の7時で,冷房の需要は減っています.何百ギガワットの電力をこうやって超伝導直流送電網を使って西部と東部で融通し合えば,電力の平準化を実現できます.

●うまい階層構造は3層?

 これらを考え合わせると,(1) 広範囲(長距離)の電力の輸送はロスの少ない直流で,(2) きめ細かい各地域への電力の配分は交流網で,(3) 最終的に電力を使う家庭/オフィス/データ・センタ内では可能な限り直流で,という3層構造がベストなのではないかと筆者は思います.こうした新しい電力網の構築に,今後,何十年かかるのかは分かりません.しかし,100年,200年の計を考えて,より効率的でロスの少ない社会インフラを構築していく必要があると考えます.

 エジソンが改良した白熱電球は,1880年に京都の八幡男山(おとこやま)の竹を炭化したフィラメントによって長寿命化に成功し,実用化されました.爾来130年間使われ続けた白熱電球ですが,日本国内ではいよいよ2012年に製造・販売が終わります.これからの10年は,まさに時代の変わり目なのかもしれません.

 

さかぐち・ゆきお
yukio@sakaguchi.org
http://d.hatena.ne.jp/YukioSakaguchi/

 

◆筆者プロフィール◆
阪口 幸雄.シリコンバレー在住25年.もともと半導体技術のベテランで,CQ出版が発行していたDesign Wave Magazineにも数度登場.最近,環境技術をあれこれ勉強中.「地球環境を守ることとビジネスの発展は両立する」がモットー.

 

 

組み込みキャッチアップ

お知らせ 一覧を見る

電子書籍の最新刊! FPGAマガジン No.12『ARMコアFPGA×Linux初体験』好評発売中

FPGAマガジン No.11『性能UP! アルゴリズム×手仕上げHDL』好評発売中! PDF版もあります

PICK UP用語

EV(電気自動車)

関連記事

EnOcean

関連記事

Android

関連記事

ニュース 一覧を見る
Tech Villageブログ

渡辺のぼるのロボコン・プロモータ日記

2年ぶりのブログ更新w

2016年10月 9日

Hamana Project

Hamana-8最終打ち上げ報告(その2)

2012年6月26日