米国発クリーンテック便り(6) ―― ギガワット級の太陽熱発電所を建設,分散型発電の課題に対応できる送電網を構築へ

阪口 幸雄

tag: 電子回路

コラム 2011年4月28日

 未曾有の災害が起こってしまいました.この度の東日本大震災で被災された皆さまに,謹んでお見舞い申し上げます.また,被災地の1日も早い復興を心よりお祈り申し上げます.

 

 

コラム・連載「米国発クリーンテック便り」 バック・ナンバ
第1回  ベンチャ群雄割拠の電気自動車充電インフラ・ビジネス
第2回  トーマス・エジソン vs. ニコラ・テスラ,130年後の決着
第3回  直流送電を前提としたインフラ整備の検討が進んでいる
第4回  米国電気自動車事情,いよいよ普及か?
第5回  「発電」と同じくらい重要な「蓄電」の米国事情

 

 原子力発電は,サイエンスとしては確立していますが,エンジニアリングとしては不完全です.人間の制御できないものを作ってはなりません.物理学の徒として,エンジニアの端くれとして,痛烈にそう思います.サイエンスとエンジニアリングを混同してはいけません.また,人間のすることを過信してはいけません.

 前回,「物理現象(空気圧縮による圧力や重力)を利用する方が化学現象を利用するより安心感があり,蓄電効率が良い」と書いたことに一抹の気持ちの悪さを感じます.あらためて,自然現象の力の大きさを感じます.大昔に日本列島がユーラシア大陸から離れたときも,大規模な地震の連続だったのかもしれません.

 さて,筆者の住む米国でも化石燃料と原子力発電からの脱却について,盛んに議論されています.今の時点で技術的(エンジニアリング的)に可能なのは,

  • 再生可能エネルギーによる発電
  • 蓄電
  • 効率的な送電による電力の融通
  • 省エネ

などです.これらのすべてを真剣に推進していかなければならないと感じます.

 地震はいつやって来るか分かりません.自然現象は避けようがありませんが,人災は避けられるはずです.メキシコ湾での原油流出も完全な人災でした.

 「再生可能エネルギーによる発電には補助金が不可欠であり,自然な自由経済にはそぐわない」という議論があります.しかし,米国は石油を維持するための

  • 膨大な軍事力の維持
  • 他国への干渉と反発
  • 自然の破壊

などの膨大なコストを払った上での「自由経済」であることを忘れていません.だからこそ,いろいろと異論はあるものの,RPS(Renewable Energy Portfolio)の設定を含めた政策が取られています.

 

●超伝導直流電力交換ステーションの建設に着工

 前々回の本コラムで,米国の送電網は大きく三つ(東半分,西半分,テキサス)に分かれており,周波数はすべて60Hzだが,お互いがシンクロ(同期)していないため,電力の融通ができないと書きました.テキサスは全米一の風力発電州ですが,余った電力をカリフォルニアやシカゴに送電できません.風力発電に向いた風は夜間に吹くことが多いのですが,これを不夜城のラスベガスには送れません.これは,日本における60Hz / 50Hz問題と基本的に同じです.

 記事を書いた時点では,三つのエリアの送電網をつなぐ超伝導直流電力交換ステーション(Tres Amigas;スペイン語で「3人の女友達」という意味)の計画があると書きました.今月になって,この計画が正式決定しました.今年(2011年)7月に着工,2014年の中ごろにフェーズ1が完成し,稼働を開始する予定です(1)

 フェーズ1の建設には6億ドル(約540億円)必要だそうで,これで三つの送電網の間の750メガワット(345キロボルト)の相互変換が可能になります.原子力発電所の1基分の発電量が1ギガワットなので,それに少し足りないくらいです.3カ所を双方向に変換するので,全部で6本の「交流→直流→交流変換」を用意します.

 これは,考えようによっては安いものです.最近の太陽光発電所の建設費用は1ワット当たり4~5ドル前後なので,750メガワットの発電所を建設するのに30億~37.5億ドル必要となる計算になりますが,これよりよっぽど安いです.Tres Amigasでは,750メガワットを立ち上げたあと,5ギガワットに拡張し,その後30ギガワットまで拡張する計画です.

 筆者の私見ですが,日本で考えると,優先順位を付けて,西日本から東日本への送電を優先し,まず2ギガワット程度(原発2基分),最終的には20ギガワット程度を双方向に融通できるようにしたらよいのではないかと思います.日本の技術なら,急げば2年程度で稼働できそうな気がします.

 

●1ギガワットの太陽熱発電計画に21億ドルの融資保証

 さて,次に再生可能エネルギーを用いた発電について述べます.化石燃料と原子力発電への依存を減らすための,現時点での唯一の現実解が太陽光発電,太陽熱発電,そして風力発電です.

 米国では太陽光発電パネルの価格の低下に伴い,太陽「光」発電所がいろいろと計画され,順次認可・着工されています.規模は数十メガワット程度のものが多いようです.一方,米国で規模の大きい再生可能エネルギー発電は,太陽「熱」発電です.

 今月になり,米国のエネルギー省(DOE:Department of Energy)はカリフォルニア州Blythe市(Los Angelsから東に300km程度,アリゾナ州との州境)で建設予定の1ギガワットの太陽熱発電計画に21億ドル(約1,900億円)の融資保証を行うと発表しました.これで銀行融資がつき,工事が始まります.総経費は50億ドルと言われているので,初期投資は5ドル/ワットとなります.太陽熱発電所にはタワー式,パラボラトラフ(雨樋)式,ディッシュ・スターリング・エンジン式などがありますが,この発電所はパラボラトラフ式です(写真1).

写真1 Solar Millennium社のトラフ型集熱装置

 

 

 なお,発電に燃料はいっさい要りませんが,発電したいときに発電できるわけではなく,1ギガワットというのはあくまでもピーク時の能力です.自然の力を使う再生可能エネルギー発電では,必ずCapacitor Factor(設備利用率)というものがあり,上記のBlythe発電所は26%です.1年間の総発電量は2,200ギガワット時(GWh)で,40年間稼働する予定です.

 太陽熱発電の良いところは,太陽が隠れたあとも余熱で数時間発電が続く点です.また,Blythe発電所の近辺は日射時間が長く,雨が多くありません.Los Angeles地域の電力消費のピークは夏の午後ですが,Blythe発電所の発電ピークと一致するため,蓄電の必要がありません.すなわち,ベース・ロードとはなりませんが,ピーク・ロードのオフセットには非常に役に立ちます.

 保守費用や銀行利子を含めた総発電コスト(LCOE:Leveraged Cost of Energy)は0.18ドル/キロワット時です.カリフォルニア州の一般家庭の平均電気料金が0.12ドル/キロワット時なので,発電すればするほど赤字になるのですが,これを承知で補助金が出され,開発にゴーがかかっています.

 

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