米国発クリーンテック便り(5) ―― 「発電」と同じくらい重要な「蓄電」の米国事情
再生可能エネルギーを用いて発電する場合,自然の力に頼るため,どうしても時間ごとの発電量がばらつきます.風が止むと風力発電の風車は止まりますし,夜になると太陽光発電や太陽熱発電は発電しなくなります.
コラム・連載「米国発クリーンテック便り」 バック・ナンバ
第1回 ベンチャ群雄割拠の電気自動車充電インフラ・ビジネス
第2回 トーマス・エジソン vs. ニコラ・テスラ,130年後の決着
第3回 直流送電を前提としたインフラ整備の検討が進んでいる
第4回 米国電気自動車事情,いよいよ普及か?
米国カリフォルニア州は2020年までに再生可能エネルギーによる発電量を33%増やすと公約していますが,2010年の発電量比率を見る限り,非常に厳しい目標であると感じます(図1).現在,米国では石炭火力発電がほぼ50%を占めています.
再生可能エネルギー発電のうち,蓄電が可能な方式は,タワー方式やトラフ(雨樋)方式の太陽熱発電です.この方式では,熱せられて高温になった液体がしばらく高温を保つことから,数時間発電を続けられます.こうした理由により,例えば平均気温の高い米国の南西部では太陽熱発電がよく利用されています.
不安定な再生可能エネルギーによる発電に頼る場合,発電量のかなりの割合を蓄電する必要があります.ここでは,現在,議論になっているいくつかの大規模蓄電方式について解説します.
●「蓄電」にはいくつかの方式がある
図2は,米国ESA(Electricity Storage Association)が作成した図です.いろいろと似たような図を見かけますが,これが比較的分かりやすいと思います.
電力会社(Utility)のレベルで使うためには,100メガワット(MW)~1ギガワット(GW)の電力を数時間蓄電し,それを数時間かけて放電する必要があります.パソコンや電気自動車でおなじみのリチウム(Li)イオン2次電池は,残念ながらが2けた小さい数値です.ここでは「CAES」,「Na-S」,「VR」の3種類の蓄電方式を取り上げます.
●巨大な地下空洞に圧縮空気を送り込んで蓄電
CAES(Compressed Air Energy Starge;圧縮空気蓄電)は,地下の大きな空洞に圧縮した空気を送り込み,エネルギーを溜める方式で,米国ではすでに20年の実績があります.設置場所に制限がある上,個人的には「シャンパンのふたが飛ぶ」ような何か怖いイメージがあります.
CAES方式では100メガワットを10時間蓄電できますが,これはすごいことだと思います.化学反応を使わず,空気を圧縮するモータと反対に圧縮空気で回転発電する発電機があればよいので,「環境に優しい」と言えそうです.
昨年(2010年),米国カリフォルニア州San Joseで開催されたEnergy Storage Summitという展示会に参加したとき,CAES装置のメーカが出展していました.会社名はDresser-Rand社で,大型の発電機械やコンプレッサを作っている会社です.巨大コングロマリットのDresserグループの傘下にあり,同社の2009年の売上は22.9億ドル(約2,000億円)だそうです.
CAES方式の米国での実績は現在1件のみです(欧州ではドイツで実績がある).アラバマ州Mcintoshで1991年から稼働しており,110メガワットの電力を貯蔵できます.これはPower South社という電力会社向けに提供されています.石炭火力発電所の発電をオフピーク時に蓄電し,ピーク時に放電しているそうです.
CAES装置を新規に設置した場合,機械コストだけで6000万ドルかかります.これに施設の建設や運用コストなど,もろもろの経費を含めると,蓄電にかかる費用は1W当たり約2ドルになるそうです.
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