米国発クリーンテック便り(7) ―― 米国電気自動車事情 part 2,Networked EV会議よりの考察

安藤 千春

tag: 組み込み 電子回路

コラム 2011年12月14日

●高速充電ネットワークは必要か?

 「必要か?」というと語弊があります.充電が必要なEVの発展にとって,充電ネットワークは欠かせません.ただしこの質問は,「家庭や職場以外のガソリン・スタンドのような場所(公共充電ステーション)での充電網の必要性は,どのくらい火急の問題か?」と置き換えてみる必要があります.ちなみに2011年10月現在,米国には2,400の充電ステーションがあります.

 今回のイベントのセミナ・パネルで,ここが,意見が二つに分かれた部分でした.いつも思うのですが,こういった業界のセミナ・パネルでは,皆の意見が一致するトピックよりも,スピーカ間で意見が分かれる場合に,将来の方向性の鍵が隠れていることが多いようです.

 「高速充電ステーション」については,電力会社PG&E社のキーノート・スピーカが「現在80~85%のプラグインEVの充電は家庭で,10~15%は職場で行われており,公共の場での充電は限られている.家庭では夜間,数時間かけて充電できるので,レベル1の低速充電で十分」としていました.
 ちなみに,現在,EVの充電には以下の三つのレベルがあります.

  • レベル1――1.44kW,充電時間は約8~16時間
  • レベル2――3.33kW,充電時間は4~6時間
  • レベル3――200kWまで.高圧の直流.充電時間は15分~30分

 現在,SAE(Society of Automotive Engineers)などを中心に標準化の準備が進んでいますが,コンセンサスについては,決定までにまだ1~2年かかるとの見込みです.ちなみに,レベル3についてはSAEが業界標準の設定に手間取っている間に,日本発の高速充電規格(ニックネームは「CHAdeMO」)が日産自動車のリーフに搭載され,浸透し始めています.

 話を会議に戻すと,こういった高速充電は火急の問題ではない,とするキーノート・スピーカに対してアナリストや参加者からの反論が目立ちました.近い将来,レベル2以上の充電が絶対に必要になる,という主張が相次ぎました.たとえて言うと,インターネットの初期にはみなダイアルアップで満足していたが,現在ではブロードバンド以外考えられないのと同じです.現在は時間がかかりすぎるため,出先での充電ユーザは少ないが,今後,バッテリの高機能化,充電速度の高速化への要求は,インターネットと同じようにうなぎ登りになり,高速充電のニーズも増す,という議論でした.

 

●充電施設関連のベンチャ企業

 この,充電ステーションのネットワーク,それにかかわる技術についてはベンチャ企業のビジネス機会も多いと見られ,事実,話題性のあるベンチャ企業もかなりあります.例えば,充電ステーションの「予約」システムなどは,どちらもベンチャ企業のAirbiguity社とCoulomb Technologies社がすでに実証実験を始めています.また,ECOtality社では「Blink Network」というスマート携帯端末のアプリを開発し,充電器のネット接続を進めています(図2).

 

図2 ECOtality社の「Blink Network」(出典:Blink Networkホームページより)

 

 ただし,充電ネットワークで収益が出るビジネス・モデルはまだ確立されていません.米国ではピーク時とオフピーク時で電力料金に6倍もの差があるため,主にピーク時に充電する公共充電設備の電力料金で,オフピーク時の家庭充電と競合するのは難しいのです.このあたりがEVの今後の課題といえそうです.

 ちなみに,EVの充電にかかわるベンチャの中でもっともユニークなビジネス・モデルは,昨年かなりの話題を呼び,日本でも実証実験が注目されたEV電池交換のBetter Place社です.しかし今回の会議ではほとんど議論の中心には出てこず,同社のビジネス・モデルに対する(悲観的な)コメントとしては,

  • ビジネスとしての遂行が難しい
  • バッテリの共通化が必要になれば,車種モデル間の差異化ができない(そのため,自動車メーカから興味を持たれない)
  • ただし,業務用(郵便配達車など)には適用できるかも...

などがありました.

 しかし,同社への評価が落ちたのかというと,そうでもありません.この会議の約2週間後の11月初旬にはBetter Place社に対して,GE社やHSBCグループなどから合計2億ドルの出資がありました.現在の同社の市場価値の評価は,なんと22億ドル(約1,750億円)となっています.

 このように,業界内で悲観的な意見が多いリスクの高いベンチャ企業に対して巨額の資金がつくところが,ダイナミックな米国のベンチャ業界の面白いところとも言えます.

 

安藤 千春
Cando Advisors 社

 

●筆者プロフィール
安藤 千春.サンフランシスコ・ベイエリアのクリーンテック・コンサルタントCando Advisors社(http://www.candoadvisors.com/)の代表.大和證券(NY,M&A),住友銀行(デリバティブ部門,NY),(元)興銀(サンフランシスコ,ベンチャ・ファンド投資)を経てオンライン取引システムのベンチャ,ファイテックに参加.スタンフォードMBA.一女のハハ.

 

 

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