インテグリティな技術コラム(9) ―― メモリ・モジュールのクロック分配

碓井 有三

tag: 実装

コラム 2010年12月10日

 前回はメモリのデータ・バスについて述べました.今回は,メモリのもう一つの信号であるクロックについて述べます.データとクロックとでは,波形乱れとスキューに対する許容度が大きく異なります.データは,極端な言い方をすれば,タイミングさえ間に合えば,波形乱れもスキューも許されます.しかしクロックは,基本的には波形乱れがなくて,出来るだけ小さなスキューであることが要求されます.DDR2までは,クロック信号は,いわゆるトーナメント方式と呼ばれる方法で分配していましたが,DDR3では芋づるのように次々とつないでいく方式が採用されています.

 ここでは波形乱れを生じない信号伝送方式について,おさらいをしてみましょう.

コラム・連載「インテグリティな技術コラム」 バック・ナンバ
第1回  反射波形にはさまざまな情報が詰まっている
第2回  パルス幅によって変化するノイズの影響
第3回  ラプラス変換による分布定数の解
第4回  ラプラス変換からフーリエ変換へ
第5回  差動インピーダンス
第6回  転換点は10年前,メモリが非同期型から同期型へ
第7回  スタブの反射はSSTLで回避
第8回  メモリ・バスの周波数特性と転送速度

●波形乱れを生じない1対1伝送

 波形乱れを生じない信号伝送は,基本的には1対1伝送です.1対1伝送は,接続点がドライバ(近端)とレシーバ(遠端)の2個所で,そのうちの1個所のみインピーダンスの非整合が許されます.

 図1(a)のように,レシーバ側のみを整合する方式を「遠端終端方式」といいます.この方式は,消費電力の増加と振幅の低下を招きますが,ドライバからレシーバに至る線路上のすべての点で波形乱れが生じません.


図1 1対1整合伝送

 

 一方,図1(b)のように,ドライバ側のみを整合する方式を「送端終端方式」といいます.消費電力の増加や振幅の低下もなく,経済的な伝送方式ですが,波形乱れがないのは遠端のみです.最適なダンピング抵抗を挿入した場合,ほぼ送端終端に近くなります.一般的に,わずかにレシーバ側でオーバ・シュートを持たせるようにダンピング抵抗を選ぶことが多いので,「ほぼ」というわけです.「ほぼ」の整合の度合いを表す反射係数は,(完全整合の0に対して)-0.1~-0.2程度です.

 もちろん,ドライバ側,レシーバ側の両方を整合する,いわゆる両終端という方式もありますが,クロック伝送にはあまり用いられません.

●1対1伝送を複数回路重ねる1対n伝送

 1対1伝送の変形が,一つのドライバから複数の負荷に信号を分配する1対n伝送です.これは,1対1伝送を複数回路重ねた形です.重ね合わせる複数の線路の遅延時間が等しければ,特性インピーダンスが低くなります.このことを除けば,回路のふるまいは1対1伝送の場合と同じです.

 ここで注意したいのは,図2に示すように,等長(厳密には等遅延)条件が満たされていないと,わずかな配線長の違いによる反射の影響によりハザード(ひげ)が生じます.


図2 非等長の1対2伝送

 

 等長条件を満たせば,例えば24mAのドライバなら,図3のように,一つのドライバから1対4に信号を分配することも可能です.12mAのドライバなら1対2程度ですが,二つのドライバを並列に接続して等価的に24mAドライバにして4本を駆動することも可能です.


図3 1対4伝送

 

 この方式は,配線条件さえ満たせば,スキューのないクロック分配を行えます.

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