インテグリティな技術コラム(1) ―― 反射波形にはさまざまな情報が詰まっている

碓井 有三

tag: 実装

コラム 2010年5月13日

 このコラムでは,筆者の経験をもとに,分布定数回路や高速な信号伝送にまつわるさまざまな話題を紹介していきたいと思います.

 

※ お知らせ
本連載コラムの理解をさらに深められるセミナ「高速ボード設計のためのシグナル・インテグリティ入門――パソコン演習を通して分布定数回路を理解する」が,2010年9月8日(水)に東京・巣鴨のCQ出版セミナ・ルームにて開催されます.


 

●「とりあえず」,「何となく」の対策になりがち

 分布定数回路を取り扱う際に最初に遭遇する課題が,高速ボードを伝わる波形の「反射」です.その対策として,図1のように,「とりあえず」0Ω(ゼロ・オーム)抵抗を挿入した試作基板を測定して,きれいな波形になるようにダンピング抵抗を選んだり,「何となく」適当なダンピング抵抗を入れて解決したりすることが多いようです.

 反射の波形をじっくりとながめるといろいろな情報を持っていることが分かるのに,原因をうやむやにしてその情報を有効に活用しないのはもったいないことです.原因をうやむやにしているから次回も同じことの繰り返しです.何とかこの繰り返しから脱却したいと思っている方は多いのではないでしょうか.
 


図1 反射による波形乱れの改善

 

●オーバシュートが10%~20%になるダンピング抵抗を選ぶ

 反射波形が振動しているパルス幅は線路の往復時間に等しく,ボードの遅延時間は1m当たりおよそ7ns(ナノ秒)なので,パルス幅が1nsのとき,配線長は7cm程度です.信号の立ち上がり時間がこの往復時間より長いと,波形が立ち上がる前に次の振動の周期が来るので,振動の振幅が小さくなります.配線長を短くする,あるいはドライバの立ち上がり時間をゆるやかにすることは,反射に対するかなり有効な対策です.

 多くの場合,反射波形には,まずオーバシュートが現れ,続いてその跳ね返りが生じます.このオーバシュートとその跳ね返りの関係を図2に示します.横軸xは,後で詳しく述べますが,線路の特性インピーダンスZ0を加味したドライバの駆動能力です.横軸の下に,40Ω,50Ω,60Ωの特性インピーダンスに対するドライバの駆動電流の目盛りを追加しているので,まずはこの目盛りで考えてください.
 


図2 ドライバの駆動能力とオーバシュート,および跳ね返り電圧

 


 図2の右下の式にxと特性インピーダンスZ0を代入することでドライバの駆動電流Iが計算できます.逆に,Z0=50Ωにおいてドライバの駆動電流が8mAならばx=1.5となり,このときのオーバシュートは20%です.このときのオーバシュートの跳ね返りはわずかなので,多くの場合「何となく」波形がきれいというときには,ダンピング抵抗はこの程度のものを選んでいるのではないでしょうか.あるいは,x=1.2になるように選ぶと,オーバシュートは10%となって,さらにオーバシュートの跳ね返りは小さくなります.

 いずれにしても,オーバシュートを10%~20%程度になるように選んでいるはずです.図2において,x=3のときにオーバシュートの跳ね返りが25%になっており,このポイントではフル振幅(100%)とスレッショルド(50%)の中間にまで達します.最悪でもこのレベルを超えないような最低振幅マージンと考えます.この点の駆動電流は,Z0=50Ωのときに16mAです.

●ダンピング抵抗は式をたてて求める

 ドライバの出力抵抗は駆動能力から簡単に推定できます.「駆動能力が24mA」とは,出力電流が24mAのときに出力電圧が0.4V以下という意味です.24mAというのは規格ぎりぎりの値で,多くの場合はその1.5倍程度の能力(36mA)があります.CMOS ICの出力回路は,動作領域内ではほとんど抵抗で近似できるので,出力抵抗は,図3に示すように400mV÷36mA=11Ωとなります.駆動能力(電流)と出力抵抗は反比例します.

 図3にほかの駆動能力のドライバの出力抵抗の目安を示しています.出力抵抗を2桁で表していますが,有効数字が2桁あるという意味ではなく,およそこの程度のものと考えてください.
 


図3 ドライバの駆動能力と出力抵抗

 


 さて,オーバシュートを20%にするためのxの値は1.5でした.特性インピーダンスZ0=50Ωのときに,R1=50÷1.5=33Ωに相当します.24mAのドライバの場合には,前述のように出力抵抗は11Ωなので,ダンピング抵抗は22Ωにすればよいわけです(図4).これはボードの特性インピーダンスが50Ωの例でしたが,70ΩのときはR1=70÷1.5=47Ωとなり,24mAのドライバなら出力抵抗は11Ωだったので,ダンピング抵抗は47-11=36Ωとなります.ずい分大きな値という気がしますが,これでいいのです.感覚ではなく,きちんと理論に基づく式を立てて値を求めることが重要です.
 


図4 ダンピング抵抗



 

●跳ね返りとオーバシュートの間にはシンプルな関係がある

 近端と遠端の振幅の計算過程を表1に整理して示します.図2のオーバシュートおよびその跳ね返りの曲線は,表1の下部の式をプロットしたものです.
 


表1 近端と遠端の振幅


 

 これらの式からオーバシュート分aおよび跳ね返り分bを求めると,

となります.この二つの式からxを消去してみてください.以下のようになります.

 この式の意味を図5に示します.跳ね返り=(オーバシュート)2という関係になります.何だか興味深い結果ですね.
 


図5 オーバシュートと跳ね返りの間の関係

 

うすい・ゆうぞう
シグナル インテグリティ コンサルタント
http://home.wondernet.ne.jp/~usuiy/

◆筆者プロフィール◆
碓井 有三(うすい・ゆうぞう).1972年,富士通株式会社入社.回路技術部長,テクノロジ本部主席部長などを経て,2001年に退社.同年,株式会社マクニカ入社.同社CTOなどを経て,2008年退社.現在,フリーのコンサルタント.

 

組み込みキャッチアップ

お知らせ 一覧を見る

電子書籍の最新刊! FPGAマガジン No.12『ARMコアFPGA×Linux初体験』好評発売中

FPGAマガジン No.11『性能UP! アルゴリズム×手仕上げHDL』好評発売中! PDF版もあります

PICK UP用語

EV(電気自動車)

関連記事

EnOcean

関連記事

Android

関連記事

ニュース 一覧を見る
Tech Villageブログ

渡辺のぼるのロボコン・プロモータ日記

2年ぶりのブログ更新w

2016年10月 9日

Hamana Project

Hamana-8最終打ち上げ報告(その2)

2012年6月26日