インテグリティな技術コラム(7) ―― スタブの反射はSSTLで回避

碓井 有三

tag: 実装

コラム 2010年10月14日

 コンピュータ機器では,メモリLSIは1個ではなく,複数個を組み合わせて使われる場合が珍しくありません.そのため,実装面積を減らす必要があり,多くの場合はモジュールの形態で使われます.1980年代の中頃にSIMM(Single In-line Memory Module)が考案され,1990年代の終わりにはDIMM(Dual In-line Memory Module)へと進化しました.メイン・ボードからこれらのモジュールへ信号を引き込む構造は,「スタブ」と呼ばれる余分な配線の存在によって,高速化が妨げられていました.

コラム・連載「インテグリティな技術コラム」 バック・ナンバ
第1回  反射波形にはさまざまな情報が詰まっている
第2回  パルス幅によって変化するノイズの影響
第3回  ラプラス変換による分布定数の解
第4回  ラプラス変換からフーリエ変換へ
第5回  差動インピーダンス
第6回  転換点は10年前,メモリが非同期型から同期型へ


 

●波形乱れを招く「スタブ」とは

 スタブ(stub)には,「木の切り株」や「折れた歯の根」という意味があります.図1に示すように,バスなどのメインの配線に対して支線のような形で伸びる,一般には短い信号線のことをいいます.


図1 スタブ

 

 伝搬する信号の立ち上がり時間が長い場合や,スタブの長さが非常に短い場合は,スタブの存在は無視できます.信号の立ち上がり時間が短くなり,スタブを伝わる信号の往復時間と同じオーダになると,スタブにおける反射が顕在化して,波形乱れが生じるようになります.多くの場合,スタブは複数個存在するので,多くの反射が何度も重なる,いわゆる多重反射が生じて,想定以上に波形が乱れます.

 メモリ・モジュール以外では,PCIバスのモジュールなどにもスタブが存在します.また,バックプレーンが存在する昔の大きなコンピュータ・システムでも,バス接続する場合にはスタブが存在していました.バス接続の形態の場合は,必ずスタブが存在していたといっても過言ではありません.

●スタブに入った信号をスムーズに出したい

 図2(a)に示すように,メインのバスからスタブに入っていった信号は,スタブの端に到達します.スタブの端には,レシーバや,ハイ・インピーダンス(Hi-Z)状態のドライバが接続されているので,開放です.開放端で100%の反射(実際には少なくとも数pFの静電容量が存在するので,複雑な反射となるが...)が生じて,反射波はスタブを逆に進み,メインのバスに戻ろうとします.


図2 スタブにおける反射

 

 さて,スタブからバスをながめると,左右どちらを見ても,特性インピーダンスZ0のT分岐となっており,図2(b)に示すように特性インピーダンスが半分のZ0/2に見えます.メインのバスとスタブの特性インピーダンスをともにZ0とすると,スタブからバスを見たときの反射係数rは,以下のようになります.

   .....(1)

 すなわち,メインのバスに出て行こうとした信号の33%が符号を反転(符号を反転する反射をショート反射と呼ぶ)して,再びスタブの他端のレシーバ側に戻り,また100%の反射が生じ,それがバスに戻るといった反射を繰り返します.

●スタブ抵抗を挿入して問題を解決

 この反射を回避するために,図3(a)のようにスタブとバスの接続部分にZ0/2の抵抗を接続すると,スタブからバスをながめたときのインピーダンスがZ0に見えるので,この点における反射を回避することができます.その結果が図3(b)です.スタブ抵抗によりインピーダンスが整合されて,スタブから出ていく信号はスムーズにバスに戻ります.


図3 スタブの反射をスタブ抵抗で回避

 

 スタブ抵抗には,もう一つの効果があります.スタブを通過するべき信号が,図4(a)のように,スタブと次のバスの配線との並列接続により反射し,33%がショート反射して,一つ前のスタブに戻ります.その先のバスとスタブには,瞬間的には33%の信号しか伝わらないので,67%の凹みが生じます.これが,図4(b)のように,スタブ抵抗によって軽減されます.この反射の数値は,スタブの往復時間が信号の立ち上がり時間がよりも大きい場合であり,実際にはこれほどの反射は発生しませんが,スタブ抵抗の効果は大きなものがあります.



図4 スタブ抵抗のもう一つの効果


 この回路形態を,スタブに直列に抵抗を挿入するという意味で,SSTL(Stub Series Termination Logic)といい,DDRメモリから採用され,現在でも引き続き使用されています.

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