インテグリティな技術コラム(4) ―― ラプラス変換からフーリエ変換へ
前回は数式が多かったので,目が疲れた方もいたのではないでしょうか.今回は紹介する数式をできるだけ絞り,細かい計算や数式は稿末に付録の形で示します.数式に強い方は付録を参照してください.
コラム・連載「インテグリティな技術コラム」 バック・ナンバ
第1回 反射波形にはさまざまな情報が詰まっている
第2回 パルス幅によって変化するノイズの影響
第3回 ラプラス変換による分布定数の解
今回は,ラプラス変換とフーリエ変換について考えていきます.ラプラス変換の式とフーリエ変換の式は非常によく似ていますが,本質的には異なります.ラプラス変換は微分演算子の一つで,過渡的な現象を考慮する際に用います.フーリエ変換は直交変換に属しており,時間信号の周波数応答を求める際に用います.
ラプラス変換とフーリエ変換の数式については付録をご覧ください.直接使う可能性があるのは,式(付1)だけでしょう.
数学的には異なるものですが,数式を見ると,似ていることが分かります.回路屋としては,厳密な定義はあまり重要ではない (笑) ので,この似ている性質を使うこととしましょう.
※ お知らせ
本連載コラムの理解をさらに深められるセミナ「高速ボード設計のためのシグナル・インテグリティ入門――パソコン演習を通して分布定数回路を理解する」が,2010年9月8日(水)に東京・巣鴨のCQ出版セミナ・ルームにて開催されます.
●RC回路の過渡現象
図1に示すような,RC回路に振幅1のステップ波形u(t)を加えた応答を求めます.ラプラス変換をよく使う人なら,
......... (1)
と簡単に求めることが出来ます.
上記のように,時間応答v(t)のラプラス変換を大文字V(s)で表します.ラプラス変換にあまりなじみのない人にとっては,式(1)は何の意味か即座には理解できないと思います.
図1のRC回路の応答を時間領域で考えると,
.........(2)
を得ます.
この式を解くのは少し面倒です.そこで,この式を,表1を用いてラプラス変換すると,
......... (3)
となります.
式(3)から電流Iを求めると,
.........(4)
を得ます.求める電圧vおよびそのラプラス変換Vは,
.........(5)
なので,式(5)を式(4)に代入して,
.........(6)
と求まりましたが,式(6)のラプラス変換はその公式の表1には載っていません.そこで多用するのが,部分分数展開です.高校の数学で習った(ような?)記憶があると思います.部分分数展開の方法については,稿末の付録を参照してください.
さて,部分分数展開によって,式(6)の右辺を二つの分数に分解(展開)します.
......... (7)
式(7)の二つの分数に展開したものを通分して左辺を導くのは簡単ですが,その逆の分解は慣れるまでは暗算では難しいようです.この式の右辺の二つの分数は,表1に公式として記載されているので,簡単に時間応答を得ることが出来ます.
.........(8)
式(1)の時間応答の例を図2に示します.これはいわゆる「積分回路」です.
直接,式(1)を求めるにはどのようにすればよいかというと,静電容量Cのインピーダンスを,1/sCと置き換えるだけです.二つのインピーダンスによる分圧に,ステップ波形の1/sをかけるだけです.インダクタLを含む回路なら,sLと置くだけです.簡単ですね.
● RC回路の周波数特性
付録に示している式(付1)~式(付4)のラプラス変換とフーリエ変換の式をながめると,ラプラス変換のsとフーリエ変換のjωが対応しています.そこで,式(1)の分圧の関係式をs→jωと置くと,図3のRC回路の周波数特性については,
.........(9)
が得られます.
式(9)の右辺のV0(ω)の係数がこのRC回路の周波数特性です.図4にその振幅の周波数特性を示します.
この周波数特性は,アナログ回路でよく用います.ちなみに図4は,1次の低域通過型のフィルタ(LPF:Low-pass Filter)です.