インテグリティな技術コラム(8) ―― メモリ・バスの周波数特性と転送速度

碓井 有三

tag: 実装

コラム 2010年11月11日

 メモリ・バスのデータ転送速度は,何によって制限されているのでしょうか.

 主な要因として,波形のなまりや反射の影響が思い浮かびます.これらを定量的に推測してみましょう.速い転送速度を得るためには,広い周波数帯域を必要とする,ということは漠然と分かっています.メモリの端子のキャパシタンスが大きいと,速いパルスは送れないということも,何となく想像がつきます.

 ここでは周波数領域でメモリ・バスをながめて,転送速度との関係を調べてみることにします.

コラム・連載「インテグリティな技術コラム」 バック・ナンバ
第1回  反射波形にはさまざまな情報が詰まっている
第2回  パルス幅によって変化するノイズの影響
第3回  ラプラス変換による分布定数の解
第4回  ラプラス変換からフーリエ変換へ
第5回  差動インピーダンス
第6回  転換点は10年前,メモリが非同期型から同期型へ
第7回  スタブの反射はSSTLで回避

●メモリ・バスの周波数特性はローパス・フィルタ

 1999年ごろ,DRAMの主流は非同期型からクロック同期のSDRAMへと移行して,メモリ周りの設計は格段に楽になりました(本コラムの第6回を参照).SDRAMは,その後SDR(Single Data Rate)からDDR(Double Data Rate)へと移行し,また新たに登場したスタブ抵抗によりスタブに起因する多重反射が減少して高速転送が可能になるなど,次々と進化していったことは皆さんご存じのとおりです(本コラムの第7回を参照).

 図1はSSTL(Stub Series Termination Logic)を適用したメモリ・バスの回路です.バス上には最大4個のメモリ・モジュールが接続されています.


図1 負荷が4個のSSTL回路


 図2はコントローラからメモリへ,すなわちライト動作のときの周波数特性です.


図2 負荷が4個のときの周波数特性


 これをマクロにみると,周波数の増加に対して振幅が減少するローパス型の特性を示しています.一般に,ローパス・フィルタの周波数帯域は-3dBで表します.最も早く減衰するA点の特性で見ると,138MHzの周波数帯域を有します.

●端子容量はなぜ大きい?

 メモリ・バスがローパス型の特性を示す最も大きな要因は,負荷としてのメモリの端子容量です.初期のSDRAMの端子容量は7pFもありました.なぜこんなに大きな容量を持つのかというと,その理由は,バスに接続される端子が入出力共通(I/Oコモン)だからです.図1は「ライト」のモードで,コントローラからメモリへ信号は向かいますが,逆の「リード」では,メモリが出力になります.従って,メモリの端子はI/Oコモンです.

 入力回路はトランジスタ・サイズが小さいので容量も小さいのですが,出力回路はpチャネルMOSトランジスタ(pMOS)とnチャネルMOSトランジスタ(nMOS)が,図3のように上下に積み重ねられた構造になっています.


図3 CMOS出力回路


 この積み重ねの回路は,アメリカ先住民が記念碑や墓標として建てた柱状の木の彫刻のトーテム・ポールと似ていることから,トーテム・ポール回路またはトーテム・ポール出力と呼ばれます.図3(a)はJISの表記,(b)はロジック的表記,(c)(a)の簡略表記です.

 pMOSはnMOSに比べて半導体の移動度が小さく,トランジスタ・サイズを大きくとる必要があります.これがCMOSの出力回路の静電容量が大きくなる最大の理由です.同じ時期に登場したDirect Rambusの端子容量が2pFと小さかったのとは対照的です.Direct Rambusでは,nMOSトランジスタのオープン・ドレイン構造が採用されていました.

 端子容量は,プロセスの微細化に伴って世代ごとに小さくなり,最新のDDR3では3pFまで減少しました.ただし,両面実装やチップを重ねたマルチスタック型のメモリ・モジュールでは端子容量は大きくなり,高速データ転送の妨げとなります.

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