実験で学ぶ電池の基礎 ―― モバイル機器を安全に設計するために知っておきたい
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電池の国際規格
日本では電池を表現するのに単1形マンガン乾電池などといいます.国際的に通用する表示は,まず電池の種類(電池系)を表すアルファベットの1文字ないしは2文字,次に形状や寸法を表すアルファベット1文字と数字が組み合わされたものが順に記載されています.9Vの006P乾電池のように,内部に複数の電池が直列に接続されているものは,最初に直列接続されている電池の個数が書かれます.例えば006Pのマンガン乾電池の場合は内部に1.5Vの小さな電池が6個入っているので,電池記号は6F22で表現されます.表2ではR(丸形)の例だけ挙げていますが,ほかにもS(角形)やF(平形)があります. また,ここで示した規格は小型1次および小型2次電池に限るものです.自動車用バッテリ(始動用鉛蓄電池)の種類を表現する規格とは異なります.
実際の例として,写真Aにソニー製ニッケル・マンガン電池と松下電器産業製オキシライド乾電池の型番を示しました.名前が異なるので一見違う電池に思われるこの二つの電池は,規格で定められた電池の種類(電池系)で表現すると,Zの記号で示される「正極がオキシ水酸化ニッケル,電解液がアルカリ水溶液,負極が亜鉛,公称電圧が1.5V」 というニッケル系1次電池となります.このように電池に表示されている規格表示を確認することで,電池の性格を知ることができます.下2けたのアルファベットはメーカごとの製造規格によるもので各社各様です.
一見まったく違うように見えるが,電池規格の中では同じ分類となる.
電池を使う電子機器の取扱説明書には,使用できる電池を示しておく必要があります.しかし,出荷する国によって電池の種類を表現する呼ばれ方が異なるので注意が必要です.例えば日本で単3電池やUM-3と呼ばれるものは,米国ではAA電池,欧州ではMignon電池,中国では五号電池と呼ばれています.
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電池の回路記号は1種類!
現在,回路設計者が使っている回路記号は国際規格であるIEC 60617(Graphical Symbols for Diagrams)を翻訳したJIS C 0617(電気用図記号)です.この規格には回路図を描くためのさまざまな電子部品の記号が定義されています.しかし電池研究者にとって心配なのは,現在ではさまざまな個性を持った電池が市場にあるにもかかわらず回路記号がたった一つということです(図A).
トランジスタの回路記号は2種類,FETも2種類,ダイオードにいたっては4種類が定義されています(図B).受動部品では抵抗が5種類,コンデンサが3種類,トランスが3種類とそれぞれの部品の特性に合わせた回路記号が用意されています.
メモリ・バックアップ回路などで1次電池を使う場合は,電池が充電されないように逆流防止のダイオードを回路に挿入しますが,逆流防止のダイオードは慎重に選定する必要があります.10μAオーダの微小な電流でも長時間にわたって電池に充電されると,過充電になって破裂や液漏れなどの事故を起こす危険があります.塩化チオニル・リチウム電池という高性能な電池はメモリ・バックアップなどによく使われます.この電池が液漏れを起こすと有毒で腐食性の高い電解液によって周りの電子回路などに大きな損傷を与えます.回路設計には十分な注意が必要です(図C).
電池を安全に使っていくにはどのような特性を持った電池が使われているのかを回路図上にはっきり示せれば,使用する電池への注意が払われて,設計者の意図が伝わるものと筆者は思っています.