実験で学ぶ電池の基礎 ―― モバイル機器を安全に設計するために知っておきたい
4 実験で知る電池の特性
市販されている電池がどのような基本的な特性をしているのかを,次の二つの実験で見ていくことにします.今回実験に使用した電池を表3に示します.
メーカ | 型番 | 電圧 | 種類 |
FDK | R6PUC | 1.5V | マンガン乾電池(黒) |
FDK | R6PSC | 1.5V | マンガン乾電池(赤) |
松下電器産業 | LR6XJ | 1.5V | アルカリ乾電池 |
松下電器産業 | ZR6XJ | 1.5V | ニッケル・マンガン乾電池(オキシライド) |
三洋電機 | HR-3UTG | 1.2V | ニッケル水素2次電池(eneloop) |
(1)負荷の大きさに対する放電特性
電池は,負荷の大きさによって消耗の仕方が異なります.電池の開放電圧と内部抵抗の変化を観察するために,バッテリ・シミュレータ(横河電機製GS610,写真4)を使って,0Aから1Aまで10mAごとに負荷電流を変化させて電池電圧の変化を観測します.無負荷時の開放電圧と内部抵抗の違いを見ていきます.
今回使用した横河電機製「GS610」の外観.
その後電池を50mAの低負荷と1Aの高負荷でそれぞれ0.02Ah消耗させます.
電池を消耗させた後は,電池を安定させるため1時間放置するまでを1サイクルとします.この実験を繰り返して,低負荷と高負荷での放電特性の違いや電池の内部抵抗の変化を観測します(図9参照).
バッテリのV-I特性測定シーケンスを示す.特性測定(SCAN),電流消費(DRIVE)および電圧回復(RETURN)の手順を繰り返し,V-I特性を自動測定する.
(2)外気温度を-10℃,50℃としたときの負荷放電試験
電気化学反応を利用した電池は周囲温度の影響をどのように受けるかを実験によって示します.恒温槽を使って周囲温度を変えて(1)で行った手順で実験を行います.高温および低温の温度環境を作るための恒温槽には三洋電機製のインキュベータMIR-153を使用しました(写真5).
今回使用した三洋電機製「MIR-153」の外観
実験を行った結果から電池がどのように動作したのかを解説します.
(1)電池の大電流放電特性
各電池のI-V特性を図10と図11に示します.負荷電流が大きくなると電池電圧は減少します.これは電極反応や,イオンの移動や拡散が追いつかず抵抗成分が増加したためです.また,放電サイクルを重ねて電池が消耗してくると,さらに大きな電圧降下が確認できます.サイクルを重ねたことで電池内部の不可逆反応などによる抵抗成分が増加し,その傾向がさらに強まった結果が現れています.電池から取り出せる電流は,次のように表され,電流が反応速度に比例します.
電圧降下の度合いから,大電流放電後の内部抵抗はマンガン乾電池>アルカリ乾電池>ニッケル・マンガン乾電池>ニッケル水素乾電池の順に大きくなっていることが分かる.
10回放電を繰り返すと,内部抵抗の大きさの傾向は変わらないが,各電池とも負荷ごとの電圧降下が大きくなっていることが分かる.
i=nFv
〔i;電流,n;反応する電子の個数,
F;ファラデー定数(96485C/mol),
v;=電極反応速度〕
つまり大電流で放電できるということは,十分に「反応しやすい」ように,電極での反応物質の輸送力が大きくなることを意味します.電池の「反応のしやすさ」を越えて負荷をかけると,電池に無理をさせることになります(図12).
電池で動作する機器を設計する場合は,電池の消耗によって開放電圧が降下し,かつ内部抵抗が上昇したときでも,バッテリ・アラームなどが点灯するまでは正常に機器が動作する必要があります.また,定められた以上の重い負荷がかからないかなど,電池に無理がかからないように回路を制御する必要があります.