実験で学ぶ電池の基礎 ―― モバイル機器を安全に設計するために知っておきたい

舘謙太

tag: 電子回路

技術解説 2008年7月 8日

(2)電池反応の温度依存性

 各電池の50℃および-10℃でのI-V曲線を図13図14に示します.電池の種類ごとの傾向は変わっていません.高温であれば放電サイクルを重ねても反応速度が速く,低温であれば反応が遅くなっていることが分かります.電池は化学反応を利用しているので温度に強く依存します.

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図13 50℃で10回放電させた後のステップ電流に対する電池電圧の変化
50℃の試験では動作温度が上がることによって,活物質と電解液の利用効率が上がり,全体的に電圧降下が小さくなっている.内部抵抗の傾向は同じ.

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図14 -10℃で10回放電させた後のステップ電流に対する電池電圧の変化
50℃の試験とは逆に-10℃の試験では活物質と電解液の利用効率が下がり,ニッケル水素乾電池以外は極端に電圧降下が大きくなっている.またマンガン乾電池は種類によらずほぼ同じ特性になる.効率が低下しているだけで未反応の活物質が多いため,常温で保存すると電圧は回復する(赤,黒いずれも1.5Vまで回復した).

  v=A・e-e/R・T
   〔v;反応速度,e;過電圧成分(活性化エネルギ),
   R;気体定数,T;絶対温度,A;頻度因子(定数)〕

 上記はアレニウス(Arrhenius)の式といい,反応速度(v)を表します.実際の電池開発ではさらに多くのパラメータを加味して反応速度を見積るため,アレニウスの式がそのまま使われることはありません.今回は低温条件を-10℃としましたが,-20℃より低い温度まで下げると,水溶性の電解液は完全に凍結に近い状態になります.水溶性の電解液が使われているマンガン乾電池やアルカリ乾電池などは極端に動作しにくくなってしまいます.

 寒冷地の冬に屋外で電池を使うときは,凍結の心配がない有機電解液が使われているリチウム系の電池を選ばなければなりません.単3や単4のマンガン乾電池やアルカリ乾電池を使う機器を寒冷地で使う場合は,富士フィルムから販売されているリチウム1次電池などの利用を推奨します.

 今回の実験のように,放電後しばらく置いておくと電池電圧が回復します.これは電池内部のイオン種の偏りが緩和するためです.図3に電位こう配とありますが,これは同時に活物質内や電解液中などでイオン種などが移動して偏りができていることを意味します.これは,ちょうどゴムの弾性に似ています(図15).電圧がかかっているときは正負極に引っ張られ,負荷からはずすと元の状態に戻ります.50℃の方が10サイクル後も無負荷状態の電池電圧が1サイクル目とほぼ変わらないのは,温度が高い方が,偏りが緩和されやすいためです.

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図15 電池の温度依存や電圧回復と「ゴムの伸び縮み」の関係

5 電池の選び方と安全な使い方

● 電池を選ぶ

 電池の種類は非常に多くありますが,まずは利用する目的に適した放電電流の幅と必要な動作電圧を確認する必要があります.

 しかし,いざ使おうというときに気になるのは「電池のカタログ通りの能力が自分の使い方で発揮されるのかどうか」ということだと思います.電池は電気化学反応を利用するものなので,「どう反応させたか(使用履歴)」によってその後の特性が大きく変わります.

 単純に負荷電流の大きさ,充放電の深さや,放電の仕方よって電池の特性は変化します.このように電池はまるで「生き物」のように思えるほど,使われ方によって特性は異なってきます.

 電池だけのことを考えれば一定の電流で放電させるのが理想的です.実際に電池を使用するにあたっては無理な負荷をかけないことや,充放電時の電圧の範囲を守ることが必要となります.

 電池を選定するには電池がどのような環境で,どのように使われるのかを想定することが重要になります.厳しい環境で使われる場合はゆとりのある電池を選ぶことです.

 表4に電池の安全性評価のためのリチウム・イオン電池パックの評価試験項目(電池工業会指針 SBA G 1101-1997)の例を挙げました.少なくとも国内メーカはこれと同等か準ずる試験を行い製品として出荷しています.ここまで過酷な条件をクリアしているのにもかかわらず事故が起きてしまうのですから,高性能な電池を使う場合は十分な電池の知識が必要です.

電気的試験
外部短絡 保護回路故障とし,電線で端子間を短絡
強制放電 保護回路故障とし,電池を強制的に放電
過充電 保護回路故障とし,定格容量の250%まで充電
大電流充電 保護回路故障とし,メーカ許容最大電流の2倍で100%充電
機械的試験
振動 直角に交わるXYZ方向に規定の振動を加える
衝撃 直角に交わるXYZ方向に規定の衝撃を加える
落下 1.9mからコンクリートに10回落下させる
釘刺し 電池中央を垂直方向から規定の釘で貫通させる
圧壊 電池を2枚の鉄製平板挟んで規定の力を加える
衝突 電池に丸棒を載せ,61cmの高さから9.1kgの重量物を落下
表4 電池パックの安全性評価試験の項目例
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