実験で学ぶ電池の基礎 ―― モバイル機器を安全に設計するために知っておきたい

舘謙太

tag: 電子回路

技術解説 2008年7月 8日

● 電池を安全に使うには

 電池を安全に使うために最も管理すべきは電池電圧です.電池電圧に注意が払われていないと電池の代表的な事故である液漏れや内部温度の上昇,破裂および発火が生じる危険があります.1次電池では放電終止電圧を,2次電池では加えて充電終止電圧を必ず管理して使うようにしてください.使用可能な最大電流値の範囲で使用するように設計することが必要です.負荷電流値が大きいと内部抵抗によってエネルギを消耗して,定格容量まで放電ができなくなります.2次電池を直列に接続して組み電池(電池パック)として使う場合は,過充電や過放電を避けるために単セルごとに電池電圧を監視します.

 電池は高性能になってきていますが,その反面電池を取り扱う際には,さまざまな注意が必要になってきています.特にリチウム・イオン電池を安心して使えるように,インテリジェント・バッテリというものがあります.このバッテリは,電池本体と電池の状態や履歴などを管理する電子回路を組み合わせた電池パックです(写真6).代表的なインテリジェント・バッテリとしてパソコン用のSBS(Smart Battery System)があります.

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写真6 インテリジェント・バッテリの例

 そのほかにも新神戸電機から発売されている自動車用鉛蓄電池には電池の状態を診断する機能が搭載されています.今後,電池の高性能化にともなってインテリジェント・バッテリの利用はますます広がっていくと思われます.

6 新しい電池の展望

● 電池の目指すところ

 さまざまな分野で使われる電池の開発においては,利用者から次のようなことが要求されています.

1)もっと軽く,小さく

 エネルギ密度(Wh/kg,Wh/cm3)を向上させるとともに使いやすい電池が求められています.

2)もっと長持ち

 電池容量が飛躍的に向上できれば,電力貯蔵など従来にない応用が考えられます.

3)もっと安全かつ使いやすく

 電池は取り扱いを誤ると事故を起こす危険を持っているので,安心して使える電池が求められています.また,現在の2次電池は充電するのに時間がかかりますが,短時間での充電を目指して現在開発が進められています.

4)もっと地球の資源を大切に

 電池にはさまざまな化学物質が使われています.その中には地球上にはあまり存在しないレア・アースやレア・メタルといった高価で貴重な物質が使われているものがあります.リチウム・イオン電池やニッケル水素電池などは,リサイクルして使わないと将来高性能な電池が作れなくなる可能性があるので,リサイクル・マークの付いた電池は再資源化すべきです.また,貴重な物質を使わないで高性能な電池が作れないか研究されています.

 1種類の電池で,これらすべての要求を満たすことはほぼ不可能です.さまざまな材料を使いながら次世代のエネルギ蓄積デバイスとして,民生用途から電力インフラ用途まで新しい電池の開発が行われています.ここでは,地球環境を維持するために活躍が期待されている電池について紹介します.

(1)電力貯蔵用電池

 需要の少ない夜間電力を蓄えて昼間使う電力負荷平準化のために使われる巨大な電池です.NAS電池,レドックスフロー電池,鉛蓄電池,電力貯蔵用リチウム電池などが現在実用化を目指して開発されています.

 東京電力と日本ガイシが開発したNAS電池は単セル当たり1.2kWh,367Wh/,2500回以上の充放電が可能なものであり,世界で初めて実用化しました(写真7).今まで電力負荷平準化には揚水発電が最も知られていましたが,電力消費が大きな都市部で電力貯蔵用電池が使われれば,電力エネルギが効率良く使えるようになります.

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写真7 実際に運用されているNAS電池の例
富士通・三重工場で実際に使用されているNAS電池.同工場では,環境保護対策の一環として,NAS電池による蓄電を行っている.

(2)電気自動車用電池

 地球温暖化を防ぐためには,自動車の燃費を大幅に改善することが求められています.その手段の一つとして,自動車の電動化が考えられています.多くの自動車メーカでは,電池メーカと共同で車載用の高性能電池の開発を積極的に行っています.日本国内では,トヨタ自動車と松下電器産業,日産自動車とNEC,ホンダと三洋電機,いすゞ自動車・三菱ふそうと日立製作所,三菱自動車工業とGSユアサがそれぞれ,自動車用にエネルギ密度の高い電池を開発しています.自動車用の電池開発は本格的な電気自動車の実用化を目指して日本,米国,欧州,韓国,中国などで国家プロジェクトとして取り組まれ,活発な開発が行われています.

*     *     *

 電池は古くからある電気エネルギを蓄積するデバイスです.近年技術の進歩によってさまざまな種類の電池が使えるようになりました.それぞれの電池の特性をよく理解して,目的にあった電池を正しく使う必要があります.

 電池はまだ研究の余地も多く,進化していくと期待されています.ぜひ電子回路を設計する方々には電池に関心を持っていただきたいと,電池研究者の一人として筆者は望んでいます.

参考・引用*文献 (1)経済産業省;次世代自動車用電池の将来に向けた提言 (2)社団法人電池工業会;電池の規格について (3)門間聰之;電気化学および工業物理化学,電気化学会,pp.298-301,2000年4月. (4)数見昌宏;燃料電池/二次電池におけるインピーダンス測定(横河電機Webページ) (5)松田好晴,竹原善一郎;電池便覧,丸善,p.79,p.117,2001年2月. (6)高村勉,佐藤祐一;ユーザーのための電池読本,コロナ社,pp.11-15,1994年6月.

山形大学
たて・けんた
<筆者プロフィール>
舘 謙太.平成20年3月22日に山形大学大学院 理工学研究科 物質化学工学専攻修了.学部時から一貫して電池材料開発従事.主な研究テーマは,「鉛蓄電池における電極劣化の評価方法の確立およびリチウム・イオン2次電池電極用ゴム材料の開発」である.本人の自覚は薄いが,すっかり指導教員に感化され変わり者となり(友人談),毎年新しく配属される学生にとって奇異な先輩学生として扱われていた.今後は刺激を求め電池材料開発から一転,「CBN工具のための材料開発および製造」に取り組む.

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