マルチプロセッサで実現したH.264ビデオ・デコーダ ――コンフィギャラブル・プロセッサのユーザ定義命令とオンチップ・バスを活用
さて,対策をたてるうえで一つ重要になるのが,ターミナル駅や大きな乗り継ぎ駅です.ターミナル駅の許容量を超える輸送は不可能です.乗降客の流れまで検討したきめの細かい最適化検討が,ターミナル駅や乗り継ぎ駅には必要になります.システムLSIにおけるもっとも重要なターミナルは,外部メモリになります.このターミナル・ポイントにおけるデータ・スループットを制御することも,オンチップ・ネットワーク設計では重要になります.
このように遅延や増大するデータ量を制御するために,複雑なネットワーク構造をエンジニアは設計してきました.外部メモリへのインターフェースを含めて,個々のアプリケーション(システムLSI)ごとに階層構造やメッシュ/リング型ネットワークとスイッチ,バッファ,アービタを手作りしてきたわけです.
IPコア・ベンダも,例えば英国ARM社はAMBA3 AXIといった従来のAMBAバスと比較して格段に性能が向上したインターフェース仕様を作成していますし,米国Sonics社のようにオンチップ・ネットワーク技術を売り物にしている会社もあります.
ネットワークがいかに重要であるかということは,最近話題の「ネットワーク・オン・チップ」ということばからもわかります.2005年11月にはフィンランドでネットワーク・オン・チップに関する国際ワークショップが開催されました.もっともこのワークショップはアカデミックな立場からの発表が比較的多く,データ,コマンドを移動するためのネットワークがデータ,コマンドを処理するモジュールより複雑かつ大規模になってしまいそうな,筆者の目からは本末転倒ではないかと思われる発表もありました(図6).
筆者は,ネットワークをいかに現実的かつ効率良く設計できるかいなかで,システムLSIアーキテクトの力量が問われるのだろうと思っています.
図6 ネットワークが大規模になりすぎる
データ,コマンドを移動するためのネットワークが,データやコマンドを処理するモジュールより複雑かつ大規模になる.