車載システムにおける高信頼性と電力管理機能の実現 ――ソフトウェアにもフェイル・セーフの考えかたが必須
3 電力管理機能の実現
ここでは,電力管理の具体的な例としてテレマティクス向けの開発用ボード「Biscayne2)」を取り上げます.この開発用ボードは,COMET注4においてルネサステクノロジが提供しており,車載サーバ・システムを設計する際のリファレンスとなる電力管理系統を持っています.本開発用ボードには,240MHz動作のCPU「SH-4(SH7760)」のほか,10M/100Mbps Ethernet,CAN,PCMCIAなどの各種インターフェースが搭載されています.また,本開発用ボード上では筆者らの開発したリアルタイムOSが走っています.このリアルタイムOSには電力管理機能を実装しています.具体的には次のような項目を考慮したソフトウェア・システムとなっています.
第1のポイントはCPUの持つパワー・モード管理機能を利用し,ハードウェア・システムの中でもっとも電力を消費する部品,つまりCPUの電力を制御している点です.今回はSH-4のパワー・モード管理で制御するCPUクロックとSDRAMのリフレッシュ動作をリアルタイムOSで制御します.
第2のポイントは,周辺デバイスのパワー・モード管理機能を用いて制御を行う点です.本開発用ボードでは,シリアル・インターフェースとEthernetが対象デバイスとなります.システムの動作状況を監視し,タイムアウトによって上記の対象デバイスの電源を落とすことで,周辺デバイスの電力制御を行っています.
第3のポイントは,従来のBIOS(basic input output system)やカーネルで電力管理を構成する方法と違って,マイクロカーネルを使用することによってアプリケーション・レベルで電力管理のポリシ注5を制御できる点です.このため,システム開発者の手元で制御することが可能になります.
また,本開発用ボード上での電力管理用フレームワークは,ほかの電力ポリシを持ったシステムへ展開できるサンプルとなっています.
注4;Community Enabling Telematicsの略.テレマティクスのための技術を推進するルネサス テクノロジを中心としたコミュニティ.2003年10月現在,OS開発会社,ミドルウェア開発会社など9社が参加.
注5;電力管理におけるシステム的な管理の「方針」のこと.実際にはシステムの状態と状態遷移図で表す.実体はパワー・マネージャのコードの中にプログラムとして組み込まれ,電力管理の状態を遷移しながらシステムを制御する.