つながるワイヤレス通信機器の開発手法(4) ――ハードウェアとソフトウェアを切り分ける
2)中期段階
大量生産によるメリットを大きく引き出してコスト競争力を持たせるために,多くの部分をハードウェア化するのが得策である.この時期になると仕様もほぼ固まり,製品の性能も安定してきている.初期段階にソフトウェアでチューニングしていた部分をハードウェア化してソフトウェアのウェイトを下げ,製品全体の単価を下げる手法が効果的である.
初期段階で32ビットCPUを使っていた製品の場合,この段階でLSI(ハードウェア,ASIC)の機能を少し多くしてCPUを16ビットや8ビットのものに置き換えることができれば,製品全体の単価を引き下げることができる.なぜなら,LSIの場合,0.18μmルールの製造プロセスであれば,数万ゲート程度増加しても単価はほとんど変わらないが,32ビットCPUを8ビットCPUに置き換えることができれば,数百円のコストダウンが可能になるからである.
3)後期段階
この時期は,同じLSIを使いながらソフトウェアだけ変えていろいろなバリエーションを増やし,製品の寿命の延命を図る.PDC方式(日本国内のディジタル方式)の携帯電話などはその最たるものである.通信制御のコア・プロセッサの部分は,かれこれ5年ほどまったく変わっていない.CPUのクロック,ビット幅,ROM/RAMの容量を大きくしながらメール転送やWebブラウズ,写真撮影の機能(iモードや写メールなど)を付加できるようにしている.つまり,まずソフトウェアだけで実現して,そのソフトウェアが肥大化すると,CPUを高性能なものに変えていくという手法を採るわけである.このとき,将来のソフトウェアの拡張を想定してコア・プロセッサを作っておく必要がある.
ここまでの説明でハードウェアとソフトウェアの切り分けについて,さまざまな要素がからんでいることがわかってもらえたと思う.また,今回は技術以外の要素を中心に説明したが,次回は純技術的な問題について説明してみたい.
おおた・ひろゆき
加賀電子(株)
◆筆者プロフィール◆
太田博之.20年近くにわたりGPS,携帯電話,ワイヤレスLAN,Bluetooth用システムおよびシステムLSI開発を経験.現在はBluetooth開発アライアンスhimicoプロジェクト(http://www.himico.com/)でコーディネータとしてアライアンスに参加.システムLSI開発から次のフェーズへのステップアップを模索中.趣味はあまたある通信標準規格をだれよりも早く理解すること.