つながるワイヤレス通信機器の開発手法(4) ――ハードウェアとソフトウェアを切り分ける
●製品仕様とハードウェア/ソフトウェアの関係
ハードウェアとソフトウェアの切り分けを考える前に,製品におけるソフトウェアとハードウェアの関係について説明する.
製品仕様,すなわち製品に対する要求仕様は以下の式で表すことができる.
Preq=Sreq+Hexe-Hctrl
Preq:製品に対する要求仕様
Sreq:ソフトウェアに対する要求仕様
Hexe:ハードウェアで実現する機能
Hctrl:ハードウェアの制御要求仕様
図1の携帯電話の概略ブロック図を例に,上の式を説明する.携帯電話は基地局と電波を使って通信し,電話の機能を果たすために,高周波回路,ベースバンド・ディジタル回路,アナログ回路,表示操作部などのハードウェアで構成される.このハードウェアで実現する機能がHexeになる.
表示操作部に表示する画像はマイクロプロセッサによって生成される.また,時刻を知らせる時計機能アラームや電話帳の機能もマイクロプロセッサに内蔵されるプログラムで実現されている.これらのソフトウェアで実現する機能はSreqになる.
また,高周波回路の周波数を変える機能,マイクやスピーカの音量調整機能などハードウェアを制御するソフトウェアもマイクロプロセッサに内蔵されるプログラムによって実現されている,この機能はHctrlで表される.これらの機能の加減算でPreqが実現されている.Preqを実現するためにHexe,Sreq,Hctrlの三つの変数を変化させることができ,製品やメーカによってその組み合わせはさまざまであることが予想できる.
例えば,ソフトウェア受信機と呼ばれる通信機がある.この通信機は図1のベースバンド・ディジタル回路の部分を,すべてDSP(信号処理用マイクロプロセッサ)に搭載されたソフトウェアで処理する(図2).このソフトウェア受信機の場合,Hexeは小さくなり,Sreqが大きくなる.
これは極端な例ではあるが,製品のコンセプトや開発時期によりハードウェアとソフトウェアの切り分けは大きく変わる.
〔図1〕携帯電話のブロック図
携帯電話は基地局と電波を使って通信し,電話の機能を果たすために,高周波回路,ベースバンド・ディジタル回路,アナログ回路,表示操作部などのハードウェアで構成される.
〔図2〕ソフトウェア受信機
この通信機は,図1のベースバンド・ディジタル回路の部分を,すべてDSPに搭載されたソフトウェアで処理する.