燃料電池自動車や次世代太陽電池の開発に大きな進展 ―― FC EXPO 2010 / バッテリー ジャパン / PV EXPO 2010レポート
燃料電池技術に関する展示会「FC EXPO 2010(第6回国際水素・燃料電池展)」と2次電池技術に関する展示会「第1回国際二次電池展(バッテリー ジャパン)」,太陽電池技術に関する展示会「PV EXPO 2010(第3回国際太陽電池展)」が,2010年3月3日~5日に東京国際展示場(東京ビッグサイト)で開催された.出展企業数はそれぞれ397社,231社,579社となっている.
会期中,展示会場の最寄り駅であるりんかい線国際展示場駅と東京ビッグサイト東展示棟の間には,燃料電池バスが無料で運行されていた.トヨタ自動車と日野自動車が共同開発した燃料電池バス「FCHV-BUS」である(写真1).
そこで筆者も燃料バスに試乗してみた.車内はふつうの路線バスと変わらない.止まっているときのアイドル音はせず,とても静かである.走り始めるとディーゼル・エンジンとはまったく違った,くぐもったようなノイズが響いた.燃料電池バスは後輪の近くにモータを配置しているので,筆者はわざと最後部の席に座っていたのだが,これまでにまったく聞いたことがない不思議なノイズだった(写真2,写真3).
●燃料電池自動車のカット・モデルに注目が集まる
それではまず,FC EXPO 2010のトピックスを紹介しよう.前年に続いて燃料電池を利用した自動車(燃料電池自動車)の実車の展示が人気を集めていた.経済産業省が進めている「水素・燃料電池実証プロジェクト」の展示ブースである.
今年は日産自動車が燃料電池自動車「X-TRAIL FCV」のカット・モデルを展示し,燃料電池スタックや水素容器などが組み込まれている様子を見せていた(写真4~写真7).
また,今年はメルセデス・ベンツ日本が燃料電池自動車「F-Cell」を展示していた(写真8).「F-Cell」はAクラスをベースとしており,燃料電池に固体高分子型を採用した.燃料は高圧水素(35MPa).最高速度は時速140km,航続距離は160kmである.乗車定員は4名.
「水素・燃料電池実証プロジェクト」のブースでは,このほか前年と同様に,トヨタ自動車,本田技研工業,米国General Motors Asia Pacific Japan社が燃料電池自動車をそれぞれ展示していた.
●全固体化で信頼性を高めたリチウム・イオン2次電池
続いて2次電池の展示会「バッテリー ジャパン」のトピックスを紹介しよう.会場では材料をすべて固体にしたリチウム・イオン2次電池が来場者の関心を引き付けていた.出光興産が開発し,実物のサンプルを展示していた(写真9).
通常のリチウム・イオン2次電池は電解液(液体)を封止しており,液漏れ対策が必要である,高温動作が難しい,といった弱点を抱えていた.これに対して,出光興産が開発した固体化リチウム・イオン2次電池は液漏れの心配がなく,100℃の高温でも充放電する.展示ブースではラミネート・タイプの電池を4枚使って直列に接続し,12V電源として使えることを示していた(写真10).展示ブースでの説明によると,高い信頼性を要求する車載用電池の市場を狙っている.
●低コスト,フレキシブル,軽量の次世代太陽電池
太陽電池の展示会「PV EXPO 2010」では,次世代の太陽電池として期待される色素増感太陽電池が注目を浴びていた.色素増感太陽電池はプラスチック基板に色素や電解液などを塗布することで作製できることから,柔らかく軽量で製造コストのきわめて低い太陽電池を実現可能だと期待されている.
技術開発ベンチャのペクセル・テクノロジーズは,プラスチック基板の色素増感型太陽電池を鉄道模型(Nゲージ)の電源に利用してみせた(写真11).3枚の小さな太陽電池モジュールに光を照射し,発生した電力を鉄道模型のジオラマに送電した.太陽電池に照射される光をさえぎると,鉄道模型の車両の走行速度が低下する.光がほぼ完全にさえぎられて照射されなくなると,車両は停止する.変換効率は最大5%~6%という.
色素増感太陽電池にはこのほか,色素の材料組成を選ぶことで吸収する光波長を変えたり,見かけの色合いを変えたりできるという特徴がある.ペクセル・テクノロジーズの提携企業である台湾のTripod Technology社は,ガラス基板に色素増感太陽電池を作製し,さまざまな色合いの太陽電池を作れることを示していた(写真12).
このほか,微小な球状シリコンを太陽電池セルとするモジュールを技術開発ベンチャの京セミが展示していた(写真13).球状シリコンの大きさは直径が約1.8mm.この球状シリコン太陽電池セルを数多くならべて太陽電池モジュールを構成する.球状なので直接光以外の光(反射光や散乱光など)も発電に利用できる,基板に柔らかなプラスチックを使える,モジュールの形状設計の自由度が高い,シー・スルー(半透明)タイプのモジュールを容易に作れる,といった特徴を備えている.展示ブースではドーム・タイプやシー・スルー・タイプなどのモジュールを展示していた(写真14).
ふくだ・あきら
テクノロジ・ライタ/アナリスト
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