iPhoneと組み込み技術で未来を考える(3) ―― 組み込みシステムとフェイル・セーフ
コラム・シリーズ「iPhoneと組み込み技術で未来を考える」 第1回 見守りシステムやパートナ・ロボットはこう変わる 第2回 環境情報を取得・再構成してパートナ・ロボットを実現へ |
機械は故障しますし,人間は失敗します.フェイル・セーフとは,機械の故障や人間の失敗が起こったときのために,安全を確保するための手段や対策です.従って,起こりうる故障や失敗に関する問題をできる限り考え,取り得る手段や対策を可能な限り事前に検討する必要があります.さらに,故障や失敗に関する直接的な影響だけでなく,社会への2次的な影響も考慮する必要があります.
たとえば,ネットワークがダウンすることによって,情報が送受信できないという直接的な被害だけでなく,情報が送れないことによりネットワーク・システム上のすべてのオンライン処理が止まってしまうなど,社会への影響は極めて甚大になります.
また,複数のシステムがリアルタイムで連動している場合,一つでもシステムが止まってしまうと,全体のシステムが止まってしまいます.一方,個人レベルでは,パソコンのハード・ディスク・ドライブがクラッシュするとすべてのデータにアクセスできなくなり,全く仕事にならないというような状況に陥ります.
このように,手書きを含む書類ベースで仕事をしていた時代とは異なり,高度化された情報社会ではさまざまなリスクを考慮しなければなりません.従って,フェイル・セーフは,現在の社会において常に考えなければならない重要な要素であり,システムが複雑化し自動化が進むにつれ,ますます避けては通れない問題です.
●21世紀は個人レベルでも安全管理を行う時代
20世紀までは,システム工学における耐故障性やシステムの冗長・分散化などが議論され,また,安全工学などにみられる製造物責任法(PL法)や工学倫理などさまざまな検討がなされてきました.これらの分野では,飛行機・鉄道・自動車などのフェイル・セーフに関する議論や,工場などでの作業の安全,製品の安全など,社会や企業が中心となって提供する安全の重要性が示唆されてきました.
しかし,21世紀に入り,安全学で議論されているように,多種・多様・多層な危険と対面する人間の安全を求める営みなど,フェイル・セーフに関する議論は個人レベルの安全管理や危機管理へと展開されています.
前回までは,モニタリングや,遠隔操作,パートナ・ロボットとそれを支える情報の構造化などについて説明しましたが,今回は,iPhoneと組み込み技術の未来の観点から,センサ・ネットワークや情報技術を用いたモニタリングを例に,フェイル・セーフについて考えてみたいと思います.
●センサ・ネットワークにおける二つのフェイル・セーフ
連載第1回目に紹介したように,人と機械をつなぐライフ・ハブとしてのiPhoneの優位性は,携帯性と,ヒューマン・インターフェースにおける操作性の高さや画面描画におけるストレスの少なさです(図1).センサ・ネットワークを用いた人の移動の検出を例に,フェイル・セーフについて考えてみましょう.
センサ・ネットワークを用いた計測では,最低限,二つのフェイル・セーフを考える必要があります.