iPhoneと組み込み技術で未来を考える(1) ―― 見守りシステムやパートナ・ロボットはこう変わる

久保田 直行

tag: 組み込み

コラム 2010年3月 3日

 連載コラムの「開発エンジニアのためのiPhone活用法」では,iPhoneを持っている開発エンジニアの方の役に立つアプリケーションの情報が掲載されていました.このような便利アプリの話とは別に,組み込み技術の基盤としてiPhoneが利用される可能性はあるのか,という疑問があります.

 最近では,OS/ミドルウェアにAndroidを採用した「クラウド・デバイス」が発表されています.タッチ・インターフェースを用いた手頃なサイズの情報端末の話題が絶えません.

 しかし,組み込み開発の世界では,Androidをソフトウェア基盤として採用するような話がほとんどで,iPhoneの話題は少ないようです.そしてiPhoneについては,どちらかというとPDAとしての使い勝手やマルチモーダルな(視覚,聴覚,触覚など,複数の感覚の情報を利用する)インターフェースを用いたアプリケーション開発の話題で盛り上がることが多いと思います.iPhoneの優れた点が,ヒューマン・インターフェースの高い操作性にあることは周知の事実です.これを活用することこそ,iPhoneにおけるアプリケーション開発の醍醐味(だいごみ)ではないかと思います.

 組み込み開発では,仕様に合わせて必要となる機能を最小限のコストと時間で実装することが求められ,マルチモーダルなインターフェースは実装上,オプション的な存在であることが多いようです.つまり,このヒューマン・インターフェースの部分を切り離すことができれば,開発環境を構築するコストを低減できるのではないかと思います.例えばiPhoneをヒューマン・インターフェースとして利用できるミドルウェアが提供されれば,組み込み開発の現場はハードウェアなどの開発に集中できます.

 本稿では,「組み込み開発におけるiPhoneの役割」という組み込み中心の考えではなく,逆の観点,すなわち,「iPhoneなら組み込み開発をどのように変えることができるのか」という視点から,iPhoneと組み込み技術の融合による未来の姿を思い描いてみることにします.

 

●iPhoneを組み込み開発に使えたら…

 iPhoneの最大の強みはヒューマン・インターフェースにおけるストレスの少なさです.賛否両論はありますが,タッチ・インターフェースの感度の高さ,ピンチ(つまむ)などのマルチタッチ,さらに,これらの操作にストレスを感じさせない画面の再描画の速さが特徴となっています.これは従来のPDAなどでは,実現できなかったことだと思います.

 このような強みを生かし,試作・実験中の組み込み機器をテストする際に,iPhoneのタッチ・インターフェースを用いて機器の内部状態を瞬時にチェックできれば,どんなに開発が容易になるだろうかと思います.ただしこれを実現するには,状態を計測し,無線環境でその情報を転送できるミドルウェアと,その情報をiPhone上で可視化するアプリケーションが必要です.例えば,現在の組み込みソフトウェア用のデバッガのオプションに,iPhoneを用いたビューワが付いていれば,便利です.

 

●iPhoneを使って遠隔モニタリング

 組み込み開発におけるiPhoneの応用の一つは,情報の閲覧だと思います.昨今では大規模なセンサ・ネットワークを構築できるようになっています.そして,そこから得られた大量の情報をいかに効率よくモニタリングするかということが問題となっています.この問題を解決するためには,「可視化」の技術が不可欠です.

 例えば,物騒な世の中になってきているので,家の中の状態をモニタリングできると非常に助かります.部屋の中の家電機器を統括・管理するシステムがすでに提供されています.家具なども含め,さまざまな情報をモニタリングできるととても役に立ちます.また,独居高齢者宅や一人で子供が留守番することの多い家庭などに対して,セキュリティ会社や建築会社がさまざまなプランを提供していますが,直感的に一目で分かり,かつタッチ・インターフェースだけで欲しい情報にたどり着けることが理想です.

 図1に,遠隔地に住む独居高齢者の「見守りシステム」の例を示します.マルチタッチに対応しているため,ピンチ操作によるシミュレータのビュー・イメージの拡大・縮小や,上下左右の指の移動に合わせたビュー・ポイントの変更などを行えます.


(a) iPhoneでビュー・イメージの拡大・縮小や,ビュー・ポイントの変更が可能


(b) シミュレーション風の仮想化空間として情報を提示
図1 遠隔地に住む独居高齢者の「見守りシステム」の例

 

 また,部屋に取り付けられたセンサや家電の状態から,現状を把握することも可能です.ただし,カメラからの映像が直接送信されるとプライバシやセキュリティの問題が生じうるため,シミュレーション風の仮想空間として情報を提示しています.

 さらに,遠隔地に住む家族は直接,環境情報にアクセスできます.例えば画面上の仮想空間の中で電気を消すと,実際の部屋の電気も消えます.エアコンの温度やテレビのチャンネルを変えることはできませんが,消し忘れた家電機器の電源などは簡単にOFFにできます.また,遠隔操作したい家電機器をダブルタップするとリモコンのメニューを表示するといった機能の拡張も容易です.

 すでに,iPhoneの優れたインターフェースを用いたゲームが多数,発表されています.加速度センサやコンパス,タッチ・パネルを用いた操作性は,上述のような入力を行うためには十分です.これらを活用することにより,効果的な操作が可能となります.ただし,家電機器やゲーム機器を操作するための赤外線通信機能は欲しいところです.赤外線通信機能を内蔵したiPhone用の周辺機器は,そのうち発売されるかもしれません.

 iPhoneを用いてユニバーサル・リモコンを開発することも可能です.内蔵されているコンパスの情報をもとにiPhoneを向けている方角を計測し,加速度センサの情報をもとにiPhoneを向けている角度を計測します.したがって,家の中にいる人の位置が分かれば,iPhoneの向きから操作したい家電機器が特定できるので,リモコンの画面を家電機器にあわせて自動的に切り替えることができます.

 米国Sun Microsystems社の無線センサ・ネットワーク端末であるSUN Spot(Sun Small Programmable Object Technology)を使用した遠隔モニタリングの例を写真1に紹介します.SUN Spotは,Javaプログラミングにより簡単にセンサ・ネットワークを構築でき,加速度や照度の計測が行えます.写真1(a)は,一人暮らしを想定した部屋にSUN Spotを取り付けた例です.ベッドや座いすに加速度センサを,冷蔵庫やキャビネットに照度センサを取り付け,そのデータをサーバに転送します.このデータにより,人がいる場所を簡単に特定できます.また,家電機器の制御には,バッファローの学習リモコンを用いました(写真1(b)).iPhoneからの家電制御信号をホスト・パソコン経由で家電機器に送信します.



(a) SUN Spotを使ったセンサ・ネットワーク


(b) SUN Spotと学習リモコン

写真1 SUN Spotを使用した遠隔モニタリングの例

 

 写真2に,iPhoneを用いたユニバーサル・リモコンの例を示します.右側のiPhoneで電気を「つける」をタップすると,表示が「つけた」と「けす」に変わり,モニタリング用の画面が明るくなります.ここで,「つける」と「けす」の二つのボタンがあるのは,電源ボタンが一つだけの場合,高齢者などが手の震えが原因で繰り返し同じボタンを押してしまうことを避けるためです.また,テレビの場合は,チャンネルと音量などを操作できるようになっています.





写真2 iPhoneを用いた家電機器の操作(上はシミュレーション・モードとリモコンモード1との連動,下はリモコン・モード2)
 また,テレビの場合は,チャンネルと音量などを操作できるようになっています(リモコン・モード2).

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