iPhoneと組み込み技術で未来を考える(7) ―― ライフログ計測のための組み込みシステムとiPhone

久保田 直行

tag: 組み込み

コラム 2011年7月28日

 前回は,ロボット・パートナの一部にiPhoneやiPadを用いることによる低コスト化や信頼性の向上などについて述べました.今回は,iPhoneやiPadを用いたロボット・パートナによるライフログの計測方法について考えてみたいと思います.ライフログとは一般に,人間の生活における行動をディジタル・データの記録として保存したものを意味します(図1).

 

図1 iPhoneを用いてライフログを残す人

 

 また,ライフログを残している人たちのことを「ライフロガー」と呼んでいるそうです注1

注1:ライフロガーという用語はいろいろなところで使われている.マルチメディアを用いたブログ・システムなどのアプリケーションをライフロガーと呼ぶこともある.

 iPhoneではGPS情報が利用できるため,カメラとボイス・メモとテキスト入力を用いてライフログを残せます.また,カレンダや時計と連動したアプリケーションを用いて,仕事や読書,趣味,食事,睡眠など,何をしたのかをライフログとして「手動」で残せます.時間と連動したライフログは意外と便利で,1週間の平均睡眠時間や読書に費やした時間などを統計データとして確認できます.これは,生活リズムの改善やQOL(Quality of Life)の向上に活用できます.

 写真やボイス・メモを残す場合,それらが残された日時や場所などの情報は自動的に保存されます.これらを検索のためのタグとして用いることはできますが,実際に検索しようとすると,日時や場所だけでなく,そのときの状況などの付加情報を併せて保存できると,絞り込みが楽になります.

 iPhoneでは,カメラやマイクのほかに,照度センサ,加速度センサ,コンパス(方位),ジャイロ(角加速度)などの情報を利用できます.例えば照度センサを用いれば,暗い場所で録音したボイス・メモであることが分かります.加速度センサやジャイロを用いれば,周りをキョロキョロ見ながら録音したボイス・メモなのかなど,状況情報を追加して保存できます.

 ただし,このような情報を大量に保存していくと,無駄なデータばかり記録することになりがちです.当然のことですが,「測る」ということは,保存したデータを,後日どのように使うのか,ということも同時に考えないと意味がありません.

 

●物理量ではなく,環境状態と関連づけられた主観的な知覚情報が必要

 書籍「センシングのための情報と数理」(出口光一郎,本多敏 著,コロナ社,2008年 刊)によると,「センシング」とは計測対象がどのような状態であるのかを定量的に理解することであり,物理法則というモデルを通して計測対象を観察することに当たる,と定義されています.通常,センシングにおいて観察したい量は「物理量」であると考えられてきましたが,厳密には,「測定」が物理量の観測に相当します注2

注2:例えばJIS Z8103の計測用語を参考にすると,「計測」とは,ある特定の目的のために対象を量的に把握する方法や手段の立案と計画から実行,結果を情報として利用できるようにする段階までを含むと定義されている.一方「測定」とは,さまざまな対象の量を決められた一定の基準と比較し,数値と符号で表すことを指す.

 物理系の性質として用いられる単位を伴う物理量は,多くの人がその数値データを見れば,だいたいどの程度のものなのか経験的に理解できる共通の指標として捉えられています.一方ライフログは,このような単位を伴う定量的な指標の集合よりも,むしろ抽象化され,さらに可能であれば環境状態と関連づけられる言語的情報として表現されることにより,はじめて意味を持ちます.

 例えばベッド上の人間の状態を計測する「安心センサ」(本コラムの第4回を参照)が定常的,かつ,周期的な変化を表す時系列の数値データを計測したとします.この数値データだけでは,ベッド上の人間がどのような状態であるのかは分かりません.しかし,この計測されたデータの背景にある環境状態として,「11月15日,午後2時12分,天気は晴れで室温が20度」というデータが存在すれば,「ベッドの上で寝返りも打たずに小春日和を楽しみながら寝ていた」というように解釈できるわけです(図2).

 

図2 小春日和のお昼寝の状態推定

 

 つまり,私たちがライフログとして欲しいのは,絶対量としての物理量ではなく,「心地よい暖かさだった」などの主観的な知覚量(距離感や速度感,明るさ感覚など,個人が主観的に感じる度合い)であり,環境状態と相対的に関連づけられた言語としての知覚情報なのです.従って,計測データから言語情報へと抽出・変換するためのデータ・マイニングと知識発見を行う手法が必要になります注3

注3:データ・マイニングとは,統計的な手法のほか,人工知能や計算的知能などに基づくデータ解析の手法を用いて,大量のデータから特徴やパターンを抽出し,意味や価値のある情報を抽出する技術を指す.また,人間が解釈して知識を取り出すことを知識発見と言う.つまり,データからの知識発見(Knowledge Discovery from Data)とは,データ・マイニングと知識発見のプロセスを合わせたものを指す.

 単にログとして残すだけなら日記のようにノートに書き留めればよいし,ブログのように覚え書きのような形で残すのもよいと思います.しかしライフログの場合は,後から参照することを念頭に置く必要があります.後から検索して必要な情報を抽出しやすいことが望ましいのです.つまり,検索しやすい形でライフログを残す必要があります.

 例えばApple社のMacintoshに付属する写真管理ソフトウェア「iPhoto」を用いると,写真に映っている内容から自動的に「人の顔」を抽出できますが,後日,検索するためには,この顔情報に氏名やキーワードなどのタグ付けを行う必要があります.最近では,写真を撮ったときにテキストや音声データをいっしょに保存できるアプリケーションが増えていますが,ここで適切なタグを付けることに失敗すると,参照したいときにタグとして用いられているキーワードが思い出せない,といった状況になりかねません.

 昨今のデジタル・カメラやデジタル・ビデオ・カメラは,印刷や視聴に耐えうる高解像度の写真や動画を残すことができます.そして,大容量のフラッシュ・メモリにかなりの枚数の写真や長時間の動画を保存できます.しかし,大切なイベントだけならともかく,ライフログとして日々のデータを保存するとなると,解像度や保存間隔などを考慮しないと,すぐにフラッシュ・メモリがいっぱいになります.さらに,検索するために多くの時間が必要になるかもしれません.従って,ライフログを生きたデータベースとして扱うためには,知覚量として手頃なデータの保存フォーマット,タグ付けのキーワード,解像度(粒度),保存間隔(サンプリング間隔)などを事前に考える必要があります.

 

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