iPhoneと組み込み技術で未来を考える(6) ―― iPhone,iPadを活用した家庭用ロボット・パートナ

久保田 直行

tag: 組み込み

コラム 2011年1月14日

 サブプライム問題による景気の落ち込みや一時期のガソリンの高騰,エコカー減税などの影響を受けて,日本では低燃費を誇るハイブリッド・カーがよく売れています.日本の自動車産業は組み込み技術に大きく支えられていますが,これはロボット産業も同様です.日本のロボット技術は世界のトップ・クラスであり,経済産業省と独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の予測では,ロボット産業が2020年には2.9兆円,2035年には9.7兆円に成長するのだそうです(1)

 しかし,自動車産業とロボット産業には異なる点もあります.自動車の市場は,家庭用から業務用まで多岐にわたっていますが,ロボット産業の顧客の多くは組み立てや加工などの製造業です.すなわち,家庭用の市場がまだ開拓されていません.

 ソニー米国法人の広報担当によると,エンターテインメント・ロボットである「AIBO」は,販売を開始した1999年から製造中止となる2006年までに15万台以上を販売したそうです(2).また,玩具として,AIBOを模したような数千円のロボットが販売されるようになり,最近ではセンサやアクチュエータを多数内蔵した,「ロボット」と呼ぶにふさわしい玩具が増えています.これらも,れっきとした組み込みシステムです. 今回は,(玩具ではない)家庭用ロボットの未来を,iPhoneや組み込み技術と共に考えてみたいと思います.

●技術は人間の能力を拡張する

 ロボットの定義は,さまざまなところでなされています.語源が"Robota"ということはよく知られていますが,例えば日本では,森 政弘 氏らが,ロボットを「移動性,個体性,知能性,汎用性,半機械半人間性,自動性,奴隷性の七つの特性を持つ柔らかい機械」と定義しています.また,JISによれば,産業用ロボットは,「自動制御によるマニピュレーション機能または移動機能をもち,各種の作業をプログラムによって実行でき,産業に使用される機械」と定義されています(3).以前は,すべての要素が内蔵された「個」として閉じた存在がロボットであり,バッテリやコンピュータが内蔵され,単体として独立して機能し,外部からの支援がなくても動作する機械を「自立ロボット」注1と呼んでいました(図1).自立ロボットの発想が出てきたのは,おそらくロボットを人間と対比し,人間のような形態と能力を目指した時代に考えられたからでしょう.

注1:「自立」と「自律」は混同されて使われる場合がある.ロボット工学の分野では一般に,バッテリやコンピュータなどが内蔵され,単体として独立して機能するロボットを「自立ロボット」と呼ぶ.そして,遠隔操作などではなく,ロボットが自らセンシングし,次の行動を決定し,アクチュエータなどを用いて動作するロボットを「自律ロボット」と呼ぶ.実際,JISによれば,外部からケーブルなどによるエネルギーの供給を受けることなく移動できるロボットを「自立移動ロボット」と呼び,自律移動が可能なロボットを「自律移動ロボット」と呼ぶ.

 

図1 自立ロボットのイメージ

 

 それでは,現在の人間の形態と能力について考えてみましょう.人間の形態は,身体的な観点から,この「自立」という定義に従いますが,能力という観点からはどうでしょうか.特に知能や知識という観点から考えてみると,印刷技術が発展する以前は,すべての知識は,師匠から弟子へ,先生から生徒へと,記憶による伝授という「知識の内在化」によって蓄えられてきました〔図2(a)〕.それが,印刷技術が進むにつれて,優れた書物や辞書,百科事典を調べることにより,知識にアクセスできるようになりました.インターネットが利用できるようになった現在,知識にアクセスするためには,パソコンやiPhoneなどでブラウザを開き,検索するだけで,世界中のインターネット上に蓄えられたデータや情報を入手できるようになりました〔図2(b)〕.

 

図2 知識の外在化

(a) 暗記による知識の伝授



(b) インターネット探索による知識の獲得

 

 従来は,何かを調べるためには,「どの書籍に書かれているのか」,「良書はどれか」などと考えなければ,欲しい情報を入手できませんでした.現在では,携帯電話からでも容易に情報を入手でき,「知識の外在化」がどんどん進んできています.もちろん,記憶することにより,普段の生活の中で,瞬時に役立つ知識を使うことはできますが,「記憶」という能力を必ずしも必要としない時代になりつつあります.

 また,従来は,知識を蓄積するために「暗記」に関する工夫が重宝されてきましたが,現在では「検索」に関する工夫が重宝されています.つまり,欲しい情報を検索するために,どのようなキーワードを用いれば効率良く検索できるのか,さらに,検索結果を絞り込むための工夫などが重視されつつあります.従って,知識の外在化の手段と,外在化された知識の利用方法が重要になります.クラウド・コンピューティングなどは,まさに,外在化された知識や情報の究極の利用方法の一つと考えることができます.

 さて,上述では,人間の形態は,身体的な観点から「自立」という定義に従うと書きましたが,現在の人間は,「自立」という身体的特徴の上に,「拡張」という身体的特徴を併せ持つとも考えられます.例えば,マクルーハンは,1950年代にテレビを中心としたメディア革命が起こったとき,「メディアは人間の身体の拡張である」とする身体拡張説を唱え,人間が使う技術というものは,身体の活動であり外在化であると述べています(4)

 例えばテレビ電話を使うと,遠く離れた場所に住む人々と,まるで目の前にいるかのように話せます.あたかも目と耳が,現在の場所から切り取られて離れた場所に存在するかのようです.つまり,身体の感覚器を空間を超えて拡張しています.また,道具を用いることにより操作する能力を拡張し,自動車や飛行機を用いることにより,移動する能力を拡張しています.さらには,写真やビデオにより過去を見ることができるので,単方向ですが時間を超えた身体の拡張が可能となります.

 このように,現在の人間は,物理的身体を拡張したり,知能を外在化したりすることが容易に行えるようになりました.特に,iPhoneは,知能の外在化や知識へのアクセスを容易にしてくれる道具です.

 

 

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