無償ツールで設計効率の向上を体験 ―― 配線レイアウトの電磁界シミュレーションを体験する
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技術解説 2009年6月25日
米国Sonnet Software社の電磁界シミュレータSonnetは,1983年に開発が始まり,1989年の商用化以来バージョンアップが続いている.当初はマイクロ波やミリ波帯などのMICやMMIC 注1の設計を支援するために開発されたが,現在は高速・高周波化のトレンドで,一般の高周波回路基板の設計や問題解決にも広く利用されている(1),(2).ここでは,無償版のSonnet Liteを使い,プリント基板の配線レイアウトを事前に検討して,設計に活かす事例を体験する. (筆者)
1.電磁界シミュレータは役に立つのか
● なぜ電磁界シミュレータが必要なのか
電子機器が小型・薄型化されることで回路基板も小さくなり,配線間も狭くなります.そこで問題になるのは,電気信号が近くの線路に電磁結合して誤動作を招くクロストークです.また動作周波数の波長が基板寸法に近くなると,グラウンド導体の縁に集中する電流によって電磁エネルギが放射されるという問題も発生します.これからの電気技術者は,「オームの法則」だけでなく「電磁気学」も設計のよりどころとしなくてはなりません.
近年の高速ディジタル回路は,複数の信号間のタイミングを合わせるために,プリント基板の配線レイアウトにも神経を使います.これはそれぞれの線路長が異なったり配線に曲がり部があることで,位相遅延注2時間に差異を生じるからです.電磁界シミュレータはこれらの状況を正しく把握するために役立ちます.
このような現象は,動作周波数がGHz前後やそれ以上の周波数で多発し,寸法によってはきょう筐体の共振(共鳴)も引き起こします.電磁界シミュレータは,原寸を入力した回路の構造に対してマクスウェルの方程式を解くことで,すべての電磁気現象を含んだシミュレーション(模擬実験)を実行するプログラムです.より実践的な問題解決の糸口をつかむことができます.
● 電磁界シミュレータの特徴
電気信号による通信は電気エネルギである電力の移動と考えられます.これは電界と磁界の波,すなわち電磁波の移動でもあります.高周波では配線路の周りを伝わる電磁波を放射しやすくなります.これを完全に絶つことはできないので,電磁波に起因するトラブルを改善するためには,「電磁界」と正面から向き合わなければなりません.
電磁界シミュレータの特徴は,見たままをツールに入力するだけでよいということです.基板をモデリングするだけで結果が得られるので,電気回路の知識は特に必要ありません.そこで入力を専門のオペレータに任せて作業効率を上げる企業もあります.しかし,シミュレーション結果を正しく評価して活用するためには,電磁気学の最小限の知識を身につける必要があります(3).
一方,SPICEや一般の回路シミュレータは,R,L,Cを用いた等価回路で基板を表現する必要があります.しかし複雑な電磁気現象を引き起こす構造を事前に知って,等価回路として入力することは困難です.
注1: MIC(Microwave Integrated Circuit)は,トランジスタやダイオードなどの能動素子とR,L,Cなどの受動素子を一体化したマイクロ波集積回路である.またMMIC(Monolithic Microwave Integrated Circuit)はモノリシック・マイクロ波集積回路とも呼ばれ,ガリウム砒素やシリコン基板の上に能動素子・受動素子を集積して作った回路である.
注2: 位相遅延は,入力された信号が出力されるまでの遅れ時間のこと.
注3: Sonnet Liteは,多層基板向けの3次元(Planar 3D)電磁界シミュレーションSonnetの無償版で,次のWebページから最新版をダウンロードできる.なお本稿では執筆時点のVersion12(β版)を使用した.