成功する社内コミュニティの作り方(2) ―― 社内をつなぎ,社外ともつながる構造が必要

斎藤 睦巳

 今回は,筆者らの社内コミュニティの成功例である「高位合成WG(ワーキング・グループ)」の活動を紹介します.このコミュニティは社内委員会として発足したものですが,社内組織のワーキング・グループとして活動しつつ,関連する情報交換を行う自主的なコミュニティとしても機能しています.

「成功する社内コミュニティの作り方(1) ―― MATLABの技術交流会を主宰して...」はこちら 

 

●LSI設計の社内コミュニティで成功例

 高位合成(High Level Synthesis)について簡単に説明します.

 高位合成とはディジタルLSIの開発において,従来のRTL(Register Transfer Level)設計に代わって,より高い設計抽象度(System Level,Transaction Levelなど)のC言語記述から回路構成を自動生成する手法で,ここ数年で急速に普及が進んでいます.高位合成ツール(図1)を用いた設計のやり方は従来の設計とは違う点が多く,実際に適用しようとすると戸惑う点があります.そこで,ワーキング・グループでは高位合成の社内への普及を目標として,各メンバが高位合成によるLSI設計手法を調査・実践し,導入に向けたガイドラインの作成や設計者のサポートを行っています.

図1 高位合成ツールの例(米国Mentor Graphics社の「Catapult C Synthesis」)

 

●定期的な活動は情報交換会とメーリング・リスト

 筆者らの会社の高位合成WGは,活発に活動を行っているコミュニティです.定期的な活動は,メンバが顔を合わせる情報交換会の開催(月に1~2回),およびメーリング・リストによる情報交換です.特にメーリング・リストを使ったやり取りは非常に活発で,内容は高位合成ツールの情報からEDA業界の動向,さらには「つぶやき」のようなものまで,多岐にわたっています.また不定期ですが,以下の活動も行っています.

  • 高位合成ツールの紹介セミナを社内で開催
  • ベンダ主催のフォーラムでユーザ事例を紹介
  • 高位合成の導入に関する解説資料の作成

 参加メンバが先進的な取り組みを行っていて,ツール・ベンダから事例紹介を依頼されることもよくあります.また,ガイドライン作成などの活動も進んでいます.

 このワーキング・グループの活動が成功した一番の要因は,高位合成の普及に熱意を持つ積極的なメンバが集まっていることです.特に,自分が持っている知識や情報を人に伝えることに喜びを感じる人が多く,社内に高位合成の良さを伝えたい,と考えて活動しています.例えばある人は自分自身が調査した結果やセミナの受講について,必ず分かりやすい資料を作って紹介してくれます.最近ではほかのメンバも見習って,資料を作って公開することが多くなりました.

 同時にメーリング・リストによるやり取りがとても活発で,気分良く情報交換できる場となっていることも大きな要因です.気軽にメールを投げ合える雰囲気ができていて,何かを投げれば必ず誰かが反応してくれる安心感があります.これはコミュニティの運営において大事なことだと思います.単に興味があるから「メールする / リプライする」だけではなく,場の雰囲気を考えて投稿してくれる人が複数います.筆者自身もそれを見習って,自分が発言できることがあればどんどんメールするようにしています.

●コミュニティを成功させる三つの要件

 高位合成WGの活動をサンプルとして,成功するコミュニティの要件について考えてみました.筆者は以下の3点が大事だと思います.

  1. 社外とのつながり
  2. 社内での存在感
  3. 複数の積極的な参加者の存在

 図2に成功するコミュニティの構成のイメージを示します.

図2 成功するコミュニティ

 

 一つ目の要件は,社外とのつながりを持っているということです.社内のコミュニティであっても,社外と接点を持つことが重要だと考えます.図2のように,メンバそれぞれが社外セミナやツール・ベンダを通して他社の方と交流し,展示会などで情報収集を行います.そして,こうして得られた人脈や情報を社内コミュニティの中で共有するのが理想的だと思います.高位合成WGではこれを積極的に行っており,前回紹介したMATLABコミュニティについてもこのような活動を始めようとしています.

 社外との接点を作ることは,参加者のモチベーションを上げるためにも非常に大事だと思っています.開発エンジニアは,現在の自分たちの技術力やスキルがどのレベルにあるのかを知りたいと思っています.社外の情報は自分たちと他社との位置関係を把握することに役立ち,さらにはメンバの意欲を引き上げてくれます.例えば,自分たちが遅れているのであれば,「もっと進めよう」という気持ちが湧いてきます.

 二つ目の要件は,コミュニティが社内で認められた存在であるということです.内に閉じこもるのではなく,存在を社内に知ってもらうことが必要です.社内で認知されるまでは,定期的に存在をアピールする必要があるでしょう.存在が社内で知れ渡り,他の社員もそのコミュニティを認識し,その分野について知りたいときや困ったときに,コミュニティのメンバにいつでもアクセスできる状態になるのが理想だと思います.

 三つ目の要件は,複数の積極的な参加者の存在がキーになるということです.成功するコミュニティは一人の主宰者が主導するというものではありません.複数のメンバがそれぞれ自律的に活動するものだと思います.図2のように,各メンバが連携してコミュニティを運営しているイメージです.コミュニティの運営は一人では無理があり,積極的に発言し活動するメンバが複数必要です.最初は主宰者が立ち上げるのですが,「いかにして積極的な参加者を巻き込むか」も,主宰者が取り組むべき課題かもしれません.高位合成のワーキング・グループではこれがうまくいっており,アクティブな活動の原動力となっています.

 同時に,メーリング・リストや掲示板への書き込みが盛んであることも,コミュニティの成功には必要です.そのためにはどうしたらよいのでしょうか? 自然に投稿が促されるしくみがあると良いのでしょうが,投稿したあとに誰かが必ず反応してくれる,という雰囲気作りのほうがより重要かもしれません.

●活動の今後が不安でもあり,楽しみでもある

 社内のコミュニティについて,筆者の失敗例や現在主宰・参加している二つの活動を紹介しました.それぞれタイプは異なりますが,比較的うまく活動できていると思います.ただし,継続していくことはなかなか難しいと感じています.MATLABコミュニティは今後も継続できるのか? もっとアクティブになるのか? 高位合成のワーキング・グループは「社内への高位合成の普及」という役割を終えたら解散してしまうのか? など,筆者自身,不安でもあり楽しみでもあります.

 今回紹介した社内コミュニティのその後についても,続編としてどこかで報告できればと思っています.本コラムが皆さんの仕事への取り組みのヒントになれば幸いです.

 

さいとう・むつみ
富士通九州ネットワークテクノロジーズ(株) 信号処理マイスター

 

◆筆者プロフィール◆
斎藤 睦巳
.九州芸術工科大学 大学院修了.大学では音響心理学を専攻.入社後は音声,オーディオCODECの開発や,ノイズ・キャンセラ,音声強調などの研究開発に従事.その後,信号処理全般に関する設計手法の研究開発を担当.社内制度にて「マイスター」の認定を受け「信号処理マイスター」と名乗る.現在はMATLABとC言語ベース高位合成を組み合わせた設計手法の構築に取り組んでいる.

 

 

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