ディジタルFMステレオ・チューナの製作 ―― 雑誌の付属基板でここまでできる
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技術解説 2009年6月 5日
2. FMステレオ・チューナの性能の測定
FMステレオ・チューナの性能は,今から20年ほど前オーディオ・メーカ各社がこぞって開発競争をした頃,ある一定の域に到達していました.高性能なFMステレオ・チューナの性能の指標としては以下のものがあげられます.
- ひずみ率:0.01%(1kHz)/ 0.03%(10kHz)
- ステレオ分離度:70dB(1kHz)/ 50dB (10kHz)
- 信号対ノイズ比(S/N):90dB
これら以外に,感度や選択度,キャプチャ・レシオといった受信機としての性能も重要になります.
● シミュレーションによる特性の測定
図6は,今回製作したFMステレオ・チューナのひずみ率を測定したものです.この測定はHDLシミュレーション上で回路のHDLモデルに対し理想的な合成信号データを与えて行いました.ステレオ復調結果をファイルに出力して高速フーリエ変換(FFT)によって出力信号のひずみ率を算出したものです.
[図6] ひずみ率の測定(シミュレーション)結果
高調波は7次まで測定.変調度:Main(L+R)+Sub(L-R)=65.5kHz,Pilot=6.54kHz.入力信号の周波数は8.772MHzとし,82.5MHzを受信していることを想定している.
1kHzのひずみ率は0.001%~0.002%の範囲にあり,かなりの低ひずみ率を達成できています.変調周波数が高くなるに従いひずみ率が増加しています.これは有限の帯域幅を受信帯域幅としているためです.変調周波数の増加に伴い次第に広がっていく側波帯が復調器の前で少しずつ欠落していくことによるものです.変調周波数が10kHzの場合,ひずみ率は0.007%程度になります.
図7はステレオ分離度の測定結果です.L-R信号の含まれる23kHz~53kHz間の周波数特性をいかに平坦にできるかで分離度が決まってきます.
[図7] ステレオ分離度の測定(シミュレーション)結果
変調度:Main(L+R)+Sub(L-R)=65.5kHz,Pilot=6.54kHz.
ひずみ率同様,変調周波数の上昇に伴い,ステレオ分離度は低下していきます.アパーチャ効果による復調振幅の低下を補正していますが,位相特性までは補正できていないためです.それでも1kHzで70dB,10kHzで50dB程度の分離度を確保できています.
図8は総合的な周波数特性を測定したものです.ディエンファシス特性や,復調回路以降に挿入しているローパス・フィルタの特性が加算された特性が現れます.± 0.1dB程度に収まっています.
[図8] 総合周波数特性の測定(シミュレーション)結果
ディエンファシス特性 T=50μsを想定.変調度:Main(L+R)+Sub(L-R)=65.5kHz,Pilot=6.54kHz.
● 実機による特性の測定
以上はシミュレーションによってディジタル信号処理部の特性を評価した結果ですが,今度はA-Dコンバータの特性も含めた,実機における信号対ノイズ比S/Nの測定結果を以下に示します.
S/Nの測定においては,FMステレオ・チューナへの入力信号は,高周波信号発生器によって発生し,A-Dコンバータの入力に直接入力トランス(T4-1)するようにしています.
FMステレオ・チューナからの出力は,S/PDIF出力を別のFPGAボードで受け,パラレル・データに変換し,FIFOメモリに取り込みます.FIFOメモリからのデータはパラレル・ポート経由でパソコン上に転送してFFT解析を実施し,対象とする周波数帯域(20kHz以下)のノイズ・パワーを積算し最大周波数偏移±140kHzに対するS/Nを測定しています.
図9は受信周波数82.5MHzにおけるS/Nの測定結果です.第3ナイキスト・バンドにおけるアンダ・サンプリングではなく,第1ナイキスト・バンドへの直接入力8.772MHz(82.5MHz-73.728MHz)の入力信号に対する特性も参考のために示してあります.
[図9] 信号対ノイズ比の測定結果
信号発生器で発生した高周波信号をA-Dコンバータの入力に与え,復調出力のノイズ電力から算出したS/N.
手元のFFT解析ツールの分解能が16ビットであるため,90dB以上のS/Nの測定は困難ですが,ステレオ,モノラルの両方のモードにおいて,入力信号が増加するに従って90dB程度まで,直線的にS/Nは向上していきます.ステレオ・モードにおいてS/Nがモノラルに比べ約20dB低下するのは,L-R信号をノイズの多い,高い変調周波数の領域を使って伝送するために起こるもので,ほぼ理論通りのS/Nの低下量です.8.772MHzと82.5MHzの二つの周波数おいてS/Nの特性に顕著な差がないことは A-Dコンバータのクロックに十分,ジッタの少ない信号を供給できていることを意味しています.